井出草平の研究ノート

ひきこもり・不登校児童福祉対策モデル事業


「ひきこもり」という言葉がおそらく初めて使われたであろう行政の事業である。(参考)
使われたのは、1991年開始の事業。また、「ひきこもり・不登校」となっているので、文部省(当時)の事業かとおもいきや、厚生省(当時)の事業である。


1991年02月20日衆議院文教委員会において秋山勝喜(厚生省児童家庭局育成課長)は以下のように述べている。

私どもが先ほど申し上げましたような事業は、福祉的に対応することによって、この不登校の児童に何らか支援をしてあげたいという考え方に基づくものでございます。


教育的アプローチではなく、福祉的アプローチであるという発言。厚生省の事業であることがここからうかがい知れる。


さて、実際にこの事業は何をしていたのかと言うことだが、大きく分けて4つある。

  • ふれあい心の友訪問援助事業……不登校児童の家にお兄さん・お姉さんのボランティアを派遣して話を聞く
  • 不登校児童宿泊等指導援助事業……は夏休みの期間に心理療法や生活指導あるいは野外活動をする
  • 家族療法事業……不登校児童とその家族を遺書に宿泊させ集団カウンセリングをする
  • 不登校児童施設指導事業……家庭環境に問題のある児童を児童相談所で心理治療を行う

(いずれも1991年02月20日衆議院文教委員会において秋山勝喜の発言から要約)


国会会議録検索システム」では秋山発言以前に「ひきこもり」「引きこもり」という単語は登場しない*1ので、国家レベルの行政の施策としては、この厚生省の「ひきこもり・不登校児童福祉対策モデル事業」というものが最初だったと考えて良いのではないかと思う。




国会会議録検索システム」ではこの事業について4件のヒットがある。また関連する発言も1件ヒットする。
該当箇所を以下に引用する。


[004/004] 120 - 衆 - 文教委員会 - 4号
平成03年02月20日
発言者:秋山勝喜


○秋山説明員 厚生省が平成三年度に実施を予定いたしておりますひきこもり・不登校児童福祉対策モデル事業というのがございますけれども、この趣旨及び概要について説明をさせていただきます。
 児童福祉関係の相談機関といたしまして各都道府県に児童相談所というのがございます。この児童相談所に相談ケースがたくさん参りますけれども、その中で学校の長期欠席児、いわゆる不登校児童に関する相談件数というのが近年著しく増加をいたしてきておるというような実態にございます。この不登校の原因にはいろいろあると思いますけれども、概念的には主として学校生活への不適応、あるいは家庭的要因によるもの、また児童本人の心理的問題、こういうふうに分けられるかと思います。このうち家庭的あるいは心理的要因によるものにつきましては、児童福祉の観点から、児童福祉施設等の機能を十分に活用して、その対応を図る必要があるというふうに考えまして、文部省ともいろいろ御連絡をさせていただきながら、この児童福祉施設等の機能を活用した平成三年度の児童福祉対策モデル事業というものを実施することを予定しているところでございます。
 これらの事業につきましては、不登校児の社会性とかあるいは自主性の伸長、家族関係の安定を図る、こういうことによりまして登校意欲の回復を支援するということで、児童福祉の向上に資することを目的とするものでございますので、この実施に当たりましては、円滑な実施を期するために、都道府県に、教育関係者、それから児童福祉関係者による福祉と教育の連絡会議というものを設けまして、ここで調整を図りながら実施することといたしておるところでございます。
 なお、このモデル事業は一応四つの事業から成っておりまして、これを順次概略説明させていただきます。
 一つは、ふれあい心の友訪問援助事業というのがございます。この事業は、児童相談所の相談指導の一環といたしまして、登校拒否児の家庭に児童の姉さんや兄さんに当たるような世代の学生等のボランティアを、心の友、メンタルフレンドというふうに称しておりますけれども、これを派遣いたしまして、児童の心を開かせ、悩み事の相談あるいは社会性の向上、こういうものを援助しようというものでございます。
 二つ目は、下登校児童の宿泊等の指導事業でございます。これは夏休みの期間を利用いたしまして、不登校児童を、児童相談所に付設されております一時保護所というのがございますけれども、ここであるとかあるいは児童福祉施設に一週間程度宿泊させまして、あるいはまた通所させまして、心理療法や生活指導あるいは野外活動、こういうものを一緒に行うことによりまして、自主性や社会性の向上を図り、登校意欲の回復を支援をするというようなものでございます。
 次に、三つ目でございますけれども、家族療法事業というのがございます。これは不登校の原因には家族関係に問題がある事例も多いというふうに言われておりますので、情緒障害児施設というのがありますけれども、ここで不登校児童とその家族を土曜、日曜などを利用いたしまして短期間の宿泊をさせまして、家族関係の改善、それの援助、それから集団カウンセリングなどを行うためのものでございます。
 四つ目は、養護施設という家庭に恵まれない子供の施設があるわけですけれども、ここで不登校の児童に指導事業をあわせ行うということでございます。この事業は、家庭環境に問題がある養護に欠ける不登校児童、母子家庭等でございますけれども、こういうところにはいろいろ問題のある子供も多いというように聞いておりますので、この子供たちを一定期間養護施設に入所させまして、基本的な生活訓練であるとか共同生活体験あるいはカウンセリング等の心理治療といいますか、こういうものを行うものでございます。
 今申し上げたこれらの四つの事業につきましては、モデル的に実施するわけでございますが、不登校児のそれぞれの状況に応じて対応するものでございまして、これらの事業と学校、教育関係サイドとの対応というのが総合的に実施されなければならない、このように思っておりまして、そのことによって福祉の向上が図られるのではないかというふうに期待しているところでございます。
 それから、私どもの方の不登校児と登校拒否の関係でございますけれども、申し上げた中に、登校拒否というのは、全く同じような条件、同じような内容のものというふうに認識をいたしておりますけれども、私どもが先ほど申し上げましたような事業は、福祉的に対応することによって、この不登校の児童に何らか支援をしてあげたいという考え方に基づくものでございます。

[003/004] 120 - 衆 - 予算委員会第四分科会 - 2号
平成03年03月12日
発言者:粟屋敏信


 家庭支援・児童健全育成対策につきましては、家庭と子育てをめぐる国民的議論を展開するための二十一世紀の子どもと家庭フォーラムの開催、父子家庭等児童夜間養護事業(トワイライトステイ)の実施、近年、ますます増加傾向にある不登校児童に対するひきこもり・不登校児童福祉対策モデル事業の実施等総合的な施策を推進することといたしております。

[002/004] 123 - 衆 - 予算委員会第四分科会 - 1号
平成04年03月11日
発言者:戸井田三郎



 家庭支援・児童健全育成対策につきましては、今後の我が国を担う児童が健やかに生まれ育つための環境づくりを推進するため、引き続き「二十一世紀の子どもと家庭フォーラム」を開催するとともに、父子家庭等児童夜間養護事業、ひきこもり・不登校児童福祉対策モデル事業の拡充等総合的な施策を推進することといたしております。

[020/162] 126 - 参 - 厚生委員会 - 13号
平成05年06月10日
発言者:清水康之


○政府委員(清水康之君) 情緒障害児の短期治療施設につきましては、今御指摘のように大変に大きな問題だということから、家庭や学校での人間関係の影響などによって不登校とかあるいは孤立、不安、そういう児童がだんだん多くなっておりますので、それを入所させ心理治療や生活指導を行う、また学校復帰を可能にしていくというふうなこととして御指摘のとおり法定施設としての児童福祉施設が設けられているわけでございます。今十二カ所という御指摘でしたが、正確には新しく平成四年度中に一カ所できまして十四カ所ありまして、平成五年度中に二カ所新たに設けられることになっておりますので、最終的には十六カ所、約七百六十名ほどの定員が確保される見込みでございます。
 先ほど文部省からお話がありましたとおり、登校拒否児というのは、五十日以上の方が五万数千人いるというふうな状態であり、かつ一般的に言うと増加傾向にあるというふうなことでございますので、私どもは、この情緒障害児短期治療施設の機能の充実が非常に望まれているというふうに考えまして、この施設整備を十分進めていくと同時に、実は平成三年度から引きこもり・不登校児童対策のためにいわゆる家族療法事業というものを新たに始めております。これは、施設に家族の方とその不登校児童とが一緒に短期間宿泊していろんなカウンセリングを行うというふうな事業でございまして、この事業についての要望といいますか需要が大変多うございますので、これらも充実していきたいというふうに考えているわけでございます。
 いずれにしましても、これからも文部省とも十分連絡をとりながら、不登校児童の動向あるいは各都道府県の要望、施設関係者の要望というふうなものを踏まえながら、必要な施設整備、対策の充実ということに努めてまいりたいと思います。

[001/004] 129 - 衆 - 予算委員会第四分科会 - 1号
平成06年06月07日
発言者:土田龍司

 第二は、社会福祉費でありますが、総額三兆千八百七十五億円を計上しております。
 まず、児童家庭対策につきましては、共働き家庭等を支援するため、乳児保育、障害児保育等の特別保育対策の一層の充実を図るとともに、小児慢性特定疾患児の福祉の増進のための手帳交付事業の創設や、ひきこもり・不登校児童福祉対策モデル事業の充実、児童扶養手当の引上げ等を図ることとしております。

*1:病気療養でひきこもり中などは存在する