岡島美朗,2007, 「鑑別診断 人格障害 (特集 アスペルガー症候群--病因と臨床研究)」 『日本臨床』65(3) (通号 910),502〜505.
アスペルガー障害とパーソナリティー障害についての論文。
発達障害は発達が通常とは異なると言うことなので、発達段階をみていく必要があって診断にある程度の時間を要する。パーソナリティー障害はその時点での状態である。そもそも診断の概念が同じではない。
人格障害との鑑別が問題となるのは,発達障害の中でも比較的に軽症で,幼児期には問題に気づかれなかった症例であるため,発達に関する情報収集が困難であったり,独特の対人関係の障害が行動上の問題によって目立たなくなったりする可能性がある.
アスペルガー障害と統合失調型パーソナリティー障害の異同について。
両者の異同については杉山が包括的に論じているが,アスペルガ一障害の被害念慮の多くは,現実に合ったいじめなどに起因しており,そうしたトラウマの過剰記憶によって形成されていることが多いことが鑑別点としてあげられる.
このように,幾つかの相違点はあげられるものの,統合失調症圏の人格障害とアスペルガー症候群との鑑別は,現実には困難である.杉山が指摘するように,統合失調症圏の病態が,発達の視点から検討されてこなかったことが大きな問題であろう.
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衣笠論文の要約。
衣笠は,パーソナリティ障害のクライテリアを満たす患者群の中に,高機能発達障害をもつものが存在することを指摘し,そうした病態を‘重ね着症候群’と名づけている.その特徴として,?情緒的交流の困難さや感情の急遽さ,平板化がみられ,しばしば自明性の喪失を訴える,?生育史に孤立しがちでいじめの対象になったり,攻撃的・性的衝動のコントロールの障害がみられたという情報がある,?乳幼児期に言語障害,強調運動障害,交友関係の障害,過剰記憶傾向,強いこだわりなどの特徴がみられる,?言語性IQと動作性IQの差が10点以上あり,IQが標準平均点以上である,といった点をあげている.
以下は回避性パーソナリティー障害への言及。
d.回遊性人格障害
現在のところ,アスペルガー症候群と回遊性人格障害との異同を論じた研究は見当たらない.しかし,アスペルガー症候群の患者が,対人関係での失敗を経験することにより,対人状況への不安が高まり,それを回避する傾向が目立つとき,両者の鑑別が必要になると思われる.回遊性人格障害の患者はしばしば引きこもりとなることが知られているが,そうした症例の病態を発達障害の観点から検討することも有用であろう.
ひきこもりの場合は回避性パーソナリティー障害という診断名を付けやすいので、ひきこもりの問題とも関わってくるところ。
3.アスペルガー症候群と反社会的傾向
近年,重大事件を起こした少年が,精神鑑定の結果,アスペルガー症候群と診断されたとする報道にしばしば接するようになった.アスペルガー症候群が一般人ロに比して犯罪にかかわる可能性が多いかどうかについては,確実な知見が得られていないが,アスペルガー症候群の患者が司法事例化したとき,彼らの独特の行動様式が人格の偏倚によるものと誤って判断されてしまうことは十分に考えられる.そうした場合,彼らにとって不適切な対処が行われ,処遇に対する不適応やそれに基づく問題行動が遷延し,社会復帰が困難になることが懸念される.こうした点から,司法精神医学の場でも,アスベルガー症候群の特性が理解されることは重要である.
Wingは,アスペルガー症候群の患者が犯罪にかかわる様態として,以下のものをあげている;?限定された,特定の興味から引き起こされる場合.銃,毒物,火災,セックス,死や殺人の特定の側面など.?学校でのいじめや拒絶といった不幸な体験から,他者を敵だと思い込む場合.?音に対する過敏性のため,音の立てた張本人を襲う場合.?受身的であるために,強い人格の他者に導かれて,犯罪に加担してしまう場合.更に,犯罪にかかわったのに,何が悪かったのかわからなかったり,自分自身や他者に及ぼす結果に無関心であったりする場合は,アスペルガー症候群を疑うべきだと述べている.触法行為を犯したアスペルガー症候群と人格障害との相違については,Murphyが心の理論(theory of mind:ToM)の観点から知見を提出している.彼は,英国の高度保安精神科ケアを受けているアスペルガー症候群,統合失調症,人格障害の3群の患者たちにToMを調査する構造化されたテストを行ったところ,人格障害患者に比してアスペルガ一障害ではToMの得点が低く,知的レベルとは不釣合いに他者の考えが理解できないことが示唆されたという.
アスペルガー障害が減刑をするための理由に挙げられるとするなら、それは障害によって犯罪が起きたことを意味する。犯罪予防の観点から言うと、早期に矯正教育をすることによって反社会的にならないように育てるということになる。大人になって手遅れだと判断された場合には、当人を隔離することが導き出されることになろう。
藤川(2007)の結果だと少年犯罪(東京家裁での受理案件)における広汎性発達障害の割合は2.8%、広汎性発達障害の人口比は0.299%*1。計算をする条件には問題があるものの、ザックリと掴むために計算すると10倍くらい犯罪を起こしやすいようである。
社会的にこの概念が浸透していって、刑事事件でアスペルガー障害の存在がこのままクローズアップされ続けるなら、アスペルガー障害を持つ人を対象とした犯罪予防対策の世論形成はきっと出てくると思う。