エイリアンの地球ライフ―おとなの高機能自閉症/アスペルガー症候群
- 作者: 泉流星
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/01
- メディア: 単行本
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広汎性発達障害を抱える妻が、夫の視点から書いた本。1冊まるまるアンとサリーの課題のような感じ。
エイリアンや異星人という表現が誤解につながるという指摘がアマゾンの書評にあって、それは確かにそうなのかもしれないが、そういう危惧というか可能性は、広汎性発達障害やアスペルガー症候群という枠組み自体が本来的に持っているものだろう。広汎性発達障害へのネガティブな視線は、正しい理解や啓蒙が足りないという人もいるが、肝心なところをごまかしているようにしか聞こえない。診断基準や障害を解説した本には、社会性の発達が通常ではない、生得的な原因で治療ができないと書いてあるが、このような記述は、正常な「私たち」と異常な「あなたたち」という区分でありそもそも差別的といえる。しかも「治らない」のだから、治療を経て、正常な「私たち」の仲間入りもできない。それがエイリアンや異星人というように異化して受け入れることができるなら、ポジティブな面はおそらくあるのだと思う。
以下で本書から2カ所引用。
人に言いたいことを伝えるための方法
電話相談にかけて、自分の考えを整理して伝える手伝いをしてもらう。
(利用できる機関) (1例)
・精神保健福祉センター……主に心の悩み一般。
・発達障害者支援センター……主に発達障害関係の悩み(診断を受けていなくても利用できる)。
・男女共同参画センター……主に女性を対象に、結婚や仕事、生活の悩み相談に応じている。
・都道府県や市町村などが設けている相談ダイヤル……王に生活上の相談ごと全般。市町村のホームページや電話帳(タウンページ)の最初の方などに載っている。内容によっていろいろ種類がある。
・いのちの電話‥生活上のあらゆる悩み。真剣で緊急なことなら、必ずしも生命に関わることでなくてもいい。大都市ではつながりにくいが、全国どこの番号にかけてもかまわない。以上の電話相談は、どれもたいがい無料で利用できる。
(利用法)
重要なポイントは、電話する時、最初に、「私は話をまとめるのがとても苦手で、人にうまく自分の思ったことを伝えられません。ですので、ちょっと話がわかりにくいかもしれませんが、そのために、普段の生活に不自由があるので、ご相談したいと思って電話しました」とか、「こういう人(例えば家族や医師)に伝えたいことがあるのですが、うまく考えがまとまらなくて困っています。上手に伝えられるよう、助けてもらいたいんです」などと、目的と、何を助けてほしいかをはっきり言うこと。あとは、とりとめのない言い方でもいい、どーっと「伝えたいこと」をどんどん聞いてもらう。それから、「では、これをどんな風に伝えたらいいでしょうか」と、考えを整理し、話を構成するのを手伝ってもらうんだ。時々相手に待ってもらって、メモを取
るのも、もう一つの大事なポイント。自閉系は同時進行で二つのことをこなすのが難しい場合が多いので、話をしながらメモを取るのは大変だけれど、「ちょっと待ってください。書きとめますから」とていねいに言えば、相手にも失礼にならない。文字が苦手
な人にとっては大変なことだけれど(録音するのも手だ)、とにかく、何かの形にして残しておかないと、どんな話をしたかについて、また混乱しかねない。
診断は必要?
妻の本を読んで、「まだ具体的な診断が出たわけではないんですが、もし自分がアスペルガー症候群だとすれば、今までの自分の全てに説明がつきます…」なんて言ってくる人はかなり多いらしい。また、医療機関を紹介してくれという依頼も多い(申し訳ないけれど、僕らは紹介は一切していない)。
でも、ちょっと妙な気がする。そう言ってくる人のほとんどが、「診断名」とか、「障害」という言葉に、不思議なぐらいこだわっている気がするからだ。
「だよね〜 診断されてなくても社会の中で何とか生活している人だって、他にもたくさんいるはずなんだ。自分が感じる不便、不自由や、周囲が感じる迷惑が限度を超えていて、もう当たり前に暮らせないほどになっている時には、それは確かに『障害』かもしれないけど、そうでなければ単なる『特徴』 にすぎないと思う。でも、それなりに社会に適応できていて、診断名は必要ないように思える場合でも、とにかく診断名がほしいっていう人がすごく多いの」
僕の考えでは、どんな人の人生も、テストで測って答えが出るものじゃない。だから、テストや診断で何かレッテルが貼られたからといって、(または、たとえ診断名がつかなかったとしても)その人自身が、何か変わるわけじゃない。つまり、自閉系の「特徴や傾向をいくらか持っている」 という現実は、同じだ。
逆に言えば、テストで 「高機能広汎性発達障害」とか 「アスペルガー症候群」 というレッテルを貼られたからといって、突然、その人が 「障害者」 という別の人種に変身するわけじゃない。妻だって、診断前も診断後も、特に性格が変化したりはしなかった。成人の場合、診断できる医者もまだ少なくて、希望する人が全員診てもらえるわけじゃない、という現実がある。また、たとえ診断を受けても、成人には特別な治療法もないので、診断名があっても、それだけでは、人生の悩みごとの解決には役に立たない。まあ、学校や職場などで診断名を示して、何らかの特別な配慮をお願いしたい、といった特殊な事情があれば、話は別だけどね。
「特に目的はないけれど、とにかく診断名がほしい! つていう人がいる一方で、うちの子どもが障害者だったらどうしよう……なんて感じに、何かすごく診断されるのを怖がって、『障害』って言葉にとても強い抵抗感を持っている人もいるよ。でもさあ、たとえ『障害者』に分類されたとして、それのどこがいけないのか、わからないんだけど。障害のある人っていうのは、何か普通より劣っているとか、欠陥がある存在だ、という思い込みがあるから、そんな風に感じるのかな〜」