ギャンブル依存にある者がギャンブルを連想する画像を見てその際の脳の活性化の度合いをfMRIで計測するという研究。方法論はfunctional magnetic resonance imaging event-related cue reactivity paradigm(George et al. 2001; Myrick et al. 2004; Smolka et al. 2006)という名前らしい。
この研究では3群の比較がおこなわれている。
- 問題のある賭博者(problem gamblers: PRG)17人
- ヘビースモーカー(heavy smokers: HSM) 17人
- 健常対照群(healthy controls: HC) 17人
ギャンブル依存について
視覚処理、感情動機付けおよび注意制御の脳回路における脳の活性化が大きいこと、およびこの活性化がギャンブル衝動と正の関係にあることが示されている。これらの効果は、薬物依存者で観察された効果と一致している(George et al. 2001; Myrick et al. 2004; Franklin et al. 2007)。
たばこ依存について
中等度のニコチン依存を示すFTNDスコアを有する者では、HCと比較して喫煙の手がかりに対する脳の反応性が増加することが観察されたが、低ニコチン依存を示すFTNDスコアを有する者では違いは認められなかった。喫煙衝動は報酬および感情関連脳領域の活動の増加と関連していた。
雑感
この画像は、キュー画像に対して、ギャンブル依存、たばこ依存にも薬物依存と同じように感情や報酬に関する脳の分野での活性化が起こっていることを示している。この研究を基に、ギャンブルもたばこも薬物も同じようなものだと結論づけるのは早く、同じ側面があると考えるのが正しいだろう。画像に対する反応なので、渇望があれば似たような反応になってある意味当然である。お腹がへっている時に、おいしそうな料理の画像をみても、似たような反応が起こるだろう。
人間は渇望に対して似たような反応を示すが、食べること、賭博、たばこ、薬物はそれぞれ質的に異なる。似た側面があることを、まったく同じだと言ってしまう飛躍した議論が時々あるが、きっちりとした弁別が必要とされるところだろう。おそらく、脳画像の力というものもあるだろう。脳画像はほとんどの人が読むことができないが、一方で、説得力が非常にあるものである。脳画像はマジック・アイテムのように使えるため、雑な議論にも使われがちなのだろう。
以下は研究の詳細。
結果
キュー画像に対する反応
ニュートラル画像と低レベルのベースライン画像の主な効果は、3群とも腹側視覚野(後頭葉occipital lobe:中・下・ 舌状回middle, inferior and lingual gyrus)、報酬・意欲、注意・認知制御に関連する領域、扁桃体amygdalaを含む内側側頭葉medial temporal lobe、両側背外側前頭前皮質bilateral dorsolateral prefrontal cortex (DLPFC)、両側後視床bilateral posterior thalamusで観察された(図2、左)。ギャンブルとベースラインの画像、喫煙とベースラインの画像では、同様の領域が確認された。また、ベースライン画像とギャンブル画像、喫煙関連画像では腹外側前頭前野ventrolateral prefrontal cortex(VLPFC)の両側活性化、ギャンブル画像とベースライン画像では背側前頭前野dorsomedial prefrontal cortex の活性化が確認された(図2、中央、右パネル)。
群間差
ニュートラルな画像と低レベルのベースラインの画像では、有意な群間相互作用効果は観察されなかった。ギャンブル画像とニュートラル画像の比較では、PRGではHCと比較して左後頭皮質left occipital cortex、両側傍海馬回bilateral parahippocampal gyrus、右扁桃体right amygdala、右DLPFCの活性化が高かった。HSMと比較して、PRGでは、ギャンブル画像を見たときに両側後頭皮質bilateral occipital cortex、両側傍海馬回bilateral parahippocampal gyrus、両側扁桃体bilateral amygdala、両側DLPFC、左VLPFCの活性化が高いことが示された(表2、図3)。併存する精神病理を持つPRGを除外しても、HCと比較したPRGのDLPFC活性化の差、HSMと比較したPRGの右扁桃体right amygdalaと左DLPFCの活性化の差は統計的に有意ではなくなったが、同様の群間差が観察された。
ギャンブルに関する画像を見ると(HCおよびHSMのニュートラル画像と比較して)PRGでは後頭側頭葉野occipitotemporal areas、後帯状皮質posterior cingulate cortex、海馬傍回parahippocampal gyrus、扁桃体amygdala の脳活性化が高いことと関連していた。PRGにおける主観的渇望は、左前頭前野left ventrolateral prefrontal cortex および左島皮質left insulaの脳活性化と正の相関を示した。
喫煙画像については、PRGやHCと比較してHSM群では条件別の有意な群間相互作用は観察されなかった。HCと比較したFTND-high群では、FTND-low群と比較したFTND-high群では、FTND-low群と比較したFTND-high群では、両側の前頭前野前部前皮質ventromedial prefrontal cortex(VMPFC)、両側吻側ACC、および左VLPFCでより大きな活性化が認められた。また、FTND-high群とPRGを比較した場合にも同様の効果が認められた(表3、図4参照)。また、FTND-high群では、FTND-low群よりも左前帯left precuneus,、右島right insula、左中上側頭回 left middle and superior temporal gyri の活性化が大きかった。FTND-low群では、HCまたはPRGと比較して、条件別の有意な群間相互作用は認められなかった。
先行研究
ギャンブルをやめようとする病的賭博者の約50%が深刻な悪影響を伴う再発を経験しており(Hodgins & el Guebaly 2004)、他の研究では、治療を求める病的ギャンブラーでは頻繁に再発することが示されている(Ledgerwood & Petry 2006)。
ギャンブル関連資料の閲覧時の活性化の増加は後頭葉のみで認められた(Potenza et al.2003)。10人の病的ギャンブラーと10人の健常対照者(HC)を対象とした第2の研究(Crockfordら2005)では、PGの被験者はHCと比較して、左後頭皮質、左房状回、右傍海馬回、右前頭前野でギャンブル刺激に反応して高い脳活性化を示した。
これらのPG研究では、注意、記憶、視覚処理に関与する脳領域の活性化が増加していることが示されているのに対し、ギャンブルの手がかりの処理中に大脳辺縁系の活動が異常に増加しているという証拠は見られなかった(例えば、扁桃体の活性化)。