井出草平の研究ノート

ブルデュー『ディスタンクシオン』と車 その1

読書会で何かよくわからないが盛り上がったのがブルデューディスタンクシオン』と車の話。

車に詳しいので盛り上がったのではなく、誰も詳しくなかったので「なるほど、よくわからん!」となってずるずると何回も引きずってしまったので、逆に盛り上がったという話題である。

メンバーの一人が調べてくれたので、一区切りは付いたものの、個人的に再燃する機会があり、また燃えてしまったので、ブログにまとめておこうと思う。

ディスタンクシオン』と車の話というと重要そうな話にも見えるが、『ディスタンクシオン』を読んだ大半の人は忘れている些末なことだと思う。どこに出てくるかというと旧版191ページの後に見開きで色の違う紙が挟まっているところである。下記の4象限の図が書かれてある。内容は様々な文化表象が書かれており、その中にいくつかの車種名が書かれてあるのだ。

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プジョー504

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1968から1996まで生産されていた息の長い車種。南米とアフリカで長い間続けられ、2005年まで生産されていたらしい。1969年にヨーロッパカーオブザイヤーを受賞している。

ディスタンクシオンでは経済資本+、文化資本-のところに位置付けられている。

f:id:iDES:20090817092806j:plain プジョー504

f:id:iDES:20210926140112j:plain プジョー504クーペファーストシリーズ

f:id:iDES:19990808171321j:plain プジョー504クーペセカンドシリーズ 1978年

f:id:iDES:20210926140150j:plain 504カブリオレ

シトロエンDS

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ディスタンクシオンではプジョー504と同じところに位置づけられている。

f:id:iDES:20210926140239j:plain シトロエン・DS(1974)

後輪が車体の中にあるのが今の車と大きく違う所。また、駐車時には車高が下がるようだ。

シトロエンDS/IDはシャルル・ド・ゴールは、DSの愛用者の一人であったそうだ。DSとIDはデザインのディテールが微妙に違うらしく、計器類が少なく、馬力がIDの方が少ないといった違いがあるそうだが、ここでは一括してDSということにしておこう。ド・ゴールが右派軍事組織「OAS」に襲撃された時にもDSに乗っていたらしい。これは映画「ジャッカルの日」にも描かれているとWikipediaに書かれているので、確かめたところ確かにDSに乗っていたし、「ジャッカルの日」には黒塗りのDSが多く出てくる。

f:id:iDES:20210926140251j:plain 映画「ジャッカルの日」。アバンタイトル。襲撃前、大統領が乗るシーン。

f:id:iDES:20210926140309j:plain 映画「ジャッカルの日」クライマックス、大統領が車から降りるシーン。

シャルル・ド・ゴール大統領お気に入りの車を『ディスタンクシオン』では経済資本+、文化資本-を評している。大統領専用車をこんな扱いにしていいのか、という気もしないでもないが、「本国フランスではタクシーや救急車などの特装車にも酷使されるような、ありふれた量販車種であった。」とwikipediaには書いてあるので、量産車であったのは間違いなさそうだ。

現在の日本だと、トヨタのセンチュリーなどの高級車があるが、当時のフランスにはそういった車がなかったともいえるだろう。とにかく車種が少ないようなのだ(車好きではないので間違えているかも)。

シトロエンGS

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1970年から1986年まで生産された車で、DSとは違い小型乗用車である。基本的には4気筒で、DSの縮小、簡略化版という位置づけである。1971年にヨーロッパカーオブザイヤー。ファミリーカーという位置づけだろう。その後、セダン、ステーションワゴンと進化している。

ディスタンクシオン』の中ではシトロエンDS GSと一緒くたに扱われているのでブルデューの中では同じものとして扱われている。ただ、個人的には、DSよりも明らかにコンパクトで一般家庭にあっても馴染む車なので、DSとGSは違う気がしている。「ちょっとブルデュー雑じゃないですか?」と思っているところ。

ルノー16

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前輪駆動の中型ファミリーカーで当時としては珍しい5ドアハッチバックスタイルだったらしい。1965年から1980年まで製造された。1966年ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー

ディスタンクシオン』ではほぼ真ん中に位置し、やや経済資本-、文化資本+寄りに書かれてある。

売価がシトロエンDSやGSよりも価格が安かったのだろうし、国民に車を普及させようというる意図を感じる。5ドアハッチバックスタイルというのも、実用的である。デザインもワーク・ミリタリー寄りのように感じるので、キャンプには向いているが、高級レストランにこの車で行くのは無理だろう(車での表現がわからないのでファッション用語で表現をしてみた)。

シトロエン 2CV

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シトロエンが1948年に発表した車で前輪駆動方式である。時期としては戦後すぐであるが、1990年まで50年以上に作られていた。大ヒット車である。累計511万台あまりを売り上げ、生産量はフランス車の中では歴代8位である。

この車は『ルパン三世 カリオストロの城』の冒頭でクラリスが逃げる際の車として有名である。

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2CVが採用されたのは監督の宮崎駿の愛車が2CVだったためである。ルパンたちが乗っているのはフィアット(イタリア)のチンクエ・チェントだが、こちれは作画監督大塚康生が乗っていた車だったから。おそらく、かなり有名な話である。

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さらなる余談だがNetflixのオリジナルシリーズのLupinでもカリオストロの城に登場したフィアットの旧型のチンクエ・チェントが登場している(シーズン2最終話)。

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宮崎駿リスペクトを忘れていないところはすばらしい。

ちなみに最近のチンクエチェントは下記のようなデザインになっている。 f:id:iDES:20210926141614j:plain 2007年モデル

イタリア車の話になってしまったので少しだけ話を戻すと、「2CV」はフランス語で「2馬力」を意味する。日本でもシトロエン2CVを「二馬力」と呼ぶことがあった。

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株式会社二馬力(にばりき)は、かつて存在した宮崎駿1984年4月に設立した個人事務所および2004年に前者を吸収合併した1997年創立の東京都武蔵野市御殿山に本店を置く日本の企業。主に著作権関連の管理を行う。
概要
社名の由来は、宮崎の長年の愛車であったシトロエン2CVの愛称から。当初は宮崎駿ジブリを離れ、年寄連中を集めて好き勝手に動画を作るのが目的だったという。
スタジオぴえろを辞めてフリーになった押井守が一時期、居候していたことがある。

ジブリ関係のものを見ていると「二馬力」と書いてあるものをよく見かけたはずである。

2CVは『ディスタンクシオン』では経済資本-、文化資本+となっている。1948年から発売が始まって、『ディスタンクシオン』の発表が1979年である。79年当時では、すでに時代遅れの車になっていたはずである。とはいえ、2CVは50年以上作られてきたファンの多い車でもあり、79年の段階でもこだわりがある人が乗っている車だったのかもしれない。

その1はここまで。