井出草平の研究ノート

ネット依存の予測因子はADHD、抑うつ、社会恐怖、敵対心

ネット依存のリスクを調べるために2年間の追跡調査を行った研究。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

この研究の目的は(1)青年期におけるインターネット嗜癖の発生を予測する精神症状を明らかにする、(2)その性差を明らかにすることである。

対象

台湾の研究。台湾南部の10の中学校に通う7年生2,293人(男子1,179人、女子1,114人)を対象。

尺度

  • ADHDはThe Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Self-rated Scale(ADHDS)。
  • うつ病はthe Center forEpidemiological Studies Depression Scale (CES-D)を使用。
  • 恐怖はThe Brief Version of the FNE (BV-FNE)を利用。Fear of Negative Evaluation Scaleの短縮バージョンである。
  • 敵意はBuss-Durkee Hostility Inventory–Chinese Version–ShortForm (BDHIC-SF) 20-item。

結果

全参加者のうち、233人(10.8%)がネット依存と分類。

予測因子は下記のようになっている。 f:id:iDES:20200725171734p:plain

2年間の追跡調査では、うつ病ADHD社会恐怖症、敵意がインターネット中毒の発生を予測していたが、うつ病社会恐怖症は女性の青年のみの間でインターネット中毒を予測していたという。さらに、男性青年と女性青年のインターネット中毒の最も有意な予測因子は、それぞれ敵意とADHDであった。

f:id:iDES:20200725171747p:plain

議論

ゲーム内の暴力が物理的な暴力を増加させる研究がある(Huesmann 2007)。また、ネット嗜癖は青少年の暴力的行動と関連も指摘されている(Ko et al. 2009)。もともと暴力性がある群がネット依存になっているだけではなく、暴力の悪循環が生じている可能性があり、縦断的な研究が必要であると書かれている。

  • Huesmann LR. The impact of electronic media violence: scientific theory and research. J Adolesc Health. 2007;41(6)(suppl 1):S6-S13.
  • Ko CH, Yen JY, Liu SC, Huang CF, Yen CF. The associations between aggressive behaviors and Internet addiction and online activities in adolescents. J Adolesc Health. 2009;44(6):598-605.

女性青年が、現実世界の感情的な困難から逃れるために代替的な承認を仮想世界が提供しているので、うつ病の女性の思春期の若者がインターネットを利用してうつ病を軽減する行動は合理的だと考えられる、と筆者らは書いている。

感想

この論文は非常に興味深い。病理の本質的な部分がテーマとなっている。
男性はADHDが予測因子ではなく、敵意が予測因子になっているというのは、ADHDと暴力・犯罪の研究と同じ結果である。おそらく、単なるADHDは関連はないが、ADHDと併存率の高い反抗挑戦性障害や素行障害が関連するというモデルである。
女性青年が抑うつと不安症を持っている場合には、B群パーソナリティ障害を併存することが多いが、この研究では計測していないので、パーソナリティー障害があるのかはわからない。ただ、著者らは明らかにパーソナリティー障害を織り込んだ記述をしている。また、女性青年の場合は、ADHDがネット依存の予測因子になるということだが、境界性パーソナリティ障害ADHDを併存するという研究(参照, Anckarsäter et al., 2006)もある。境界性パーソナリティ障害ADHDの関連は最近はあまり議論されていないが、このあたりの概念整理と、発達精神病理学的メカニズムを明らかにしていく必要があるだろう。

Science News

www.sciencedaily.com