井出草平の研究ノート

LEAD基準

LEAD基準/診断について説明する機会が多々あったため、ロバート・スピッツァーが1983年にLEAD基準を提言した論文の該当箇所を翻訳することにした。

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  • Spitzer, R. L. 1983. “Psychiatric Diagnosis: Are Clinicians Still Necessary?” Comprehensive Psychiatry 24 (5): 399–411.

現在では、LEAD基準は最も確実性の高い診断基準として用いられている。構造化面接の有効性と比較されるのもLEAD診断である。

ただ、LEAD基準は積極的な提唱だったわけではない。精神医学では1970年にRobins=Guze基準と呼ばれる厳格な基準が提唱されていた。この基準に合わせて精神医学を改革し、DSM-IIIを作成しようとしたものの、Robins=Guze基準を満たす診断というのは数えるほどしかなく、LEAD基準へと舵を切ったというのが実態である。Robins=Guze基準というの統合失調症をベースにした基準であったが、その当時の神経症、今でいう、抑うつ障害群であるとか不安症群などは統合失調症と同じレベルでの診断は困難であったのだ。

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  • Robins, E., and S. B. Guze. 1970. “Establishment of Diagnostic Validity in Psychiatric Illness: Its Application to Schizophrenia.” The American Journal of Psychiatry 126 (7): 983–87.

とはいうものの、Robins=Guze基準、LEAD基準ともに重要な基準であることには違いはない。特に新しいタイプの精神疾患が現れた際、例えば「ゲーム障害」などが提唱された場合に、その診断基準はRobins=Guze基準に適するか否かは基本的な精神疾患の理解をする際に今でも大変役立つ。

精神科の診断:臨床家はまだ必要なのか?
Psychiatric Diagnosis: Are Clinicians Still Necessary?
Robert L. Spitzer

LEAD基準スタンダードの提言
研究室での検査が、不可知論的な評価手段の有効性を評価するための究極の基準、すなわち「ゴールドスタンダード」となりうる器質的な精神疾患は、ほんのわずかしかない。ほとんどの精神疾患にはそのようなゴールドスタンダードがないため、私は以下のような控えめなLEAD基準を提案する。LEADという頭文字には、3つの本質的なコンセプトが含まれている。Longitudinal(長期的)、Expert(専門家)、All Data(すべてのデータ)である。

Longitudinal(縦断的)
これは、診断評価が、入院時に行われる初期評価のように、病気の進化のある時点で行われる単一の検査に限定されないことを意味する。最初の評価の後に初めて現れた、あるいは特定された症状も、病気のエピソード全体を診断する際に考慮される。

Expert(専門家)
基準となる診断は、信頼できる診断を行う能力を証明した専門の臨床医によって行われます。これらの専門臨床家は、徹底した臨床面接に基づいて独立した診断を行い、診断上の不一致の理由を議論し、基準となる指標を構成する合意診断を行う。

All Data(すべてのデータ)
専門の臨床家は、対象者を体系的に評価するだけでなく、家族などの情報提供者にインタビューを行い、病棟スタッフや以前のセラピストなど他の専門家から提供されたデータにアクセスします。この評価では、SCIDで評価されるのと同じ診断が体系的に評価されます。

我々は、LEAD基準の概念を、初期評価手順としてのSCIDの妥当性を評価するためにどのように適用できるかを顧問と議論した。例えば、不安障害や精神障害の患者の研究に専念している臨床サービスを考えてみよう。SCIDは入院時に投与され、SCID面接官は、紹介状や過去の症例記録など、その時点で利用可能なあらゆる臨床情報にアクセスできる。
この患者は、上級臨床スタッフ(各スタッフは以前に系統的な診断信頼性研究に参加し、十分な信頼性が得られている)によって数か月間集中的に研究される。これには、患者と家族や友人との独立した診断面接の実施や、時間の経過に伴う患者の状態の変化の観察などが含まれる。最後に、これらの資料をすべて見直し、DSM-IIIの診断基準を慎重に検討した上で、病気のエピソードに対するコンセンサス診断を行う。そして、この包括的な縦断的臨床評価が、さまざまな診断を受けた一連の患者におけるSCIDの手続き上の妥当性を評価するための診断基準として用いられる。 指定された診断基準や、最近の命名法や分類法の多くの変更など、精神医学の分類学における進歩は、常に大切な信念に対する挑戦である。それは、DISの革新も同様である。DISは、臨床家のコートによく知られているようにボールを置き、スコアはDISに40ラブと有利になっている。技術の進歩により、臨床家が診断評価の仕事に必要でなくなったわけではないことを証明する責任が臨床家にある。このゲームの結果がどうであれ、再戦は避けられない。

SCID: The Structured Clinical InterviewとはDSMをベースにした構造化面接である。現在はSCID-5が使われており、日本語ではSCID-5-RVとPDが翻訳されている。
DISはDiagnostic Interview Scheduleのことである。Robinsらの下記の論文を参照のこと。

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  • Robins, L. N., J. E. Helzer, J. Croughan, and K. S. Ratcliff. 1981. “National Institute of Mental Health Diagnostic Interview Schedule. Its History, Characteristics, and Validity.” Archives of General Psychiatry 38 (4): 381–89.