井出草平の研究ノート

山崎晃資「高機能広汎性発達障害の人々への精神科医療の対応に関する研究」

山崎晃資,2007,
「高機能広汎性発達障害の人々への精神科医療の対応に関する研究」
『厚生労働科学研究責補助金こころの健康科学研究事業 高機能広汎性発達障害にみられる反社会的行動の成因の解明と社会支援システムの構築に関する研究』研究報告書


広汎性発達障害の現在の精神科での対応の問題点についてのまとめ。

PDDの人々に対する精神科医療における対応上の問題を整理すると;


①PDDが見落とされている例がかなりあり、発達障害とわかると体良く断られることが多い。
②HPDDの臨床経験が乏しく、対応を誤っていたり、大量の向精神薬が処方されていたり、保護室対応が多くなる。
デイケアでも、HPDDの人々の特性が理解されず、独特の思考・態度に感情的な反応をされてしまいがちである。
④安易にHPDDまたはASと診断する傾向が多くなりつつある。
⑤幼児期から学齢期までは、医療機関および相談機関で「専門的な相談や療育指導」が行われてきたにもかかわらず、思春期・成人期・老年期になって、本当に医療と福祉の連携による支援が必要になった時に、ある意味で「体良くかかわりを断られ」途方に暮れているケースに出会うことが多い。
発達障害のある人々とその家族の精神科医療に対する期待と絶望は、計り知れないものがある。伝統的に、統合失調症を中心とした治療モデルを培ってきた精神科病院が、HPDDを含む発達障害にも積極的に目を向け、社会の要請にどう応えるのかは緊急の課題となってきている。

(注・・・PDD:広汎性発達障害,HPDD:高機能広汎性発達障害,AS:アスペルガー症候群)


⑥に見られるように、山崎は広汎性発達障害に対応できる精神科医療への改革を主張している。


反社会的行動については以下のように求められている。山崎が前年度の報告書で書いていたように暴力性は家族へ向けられているケースが多いとのこと。このような暴力性が噴出しているケースでは精神科医療機関で対応を拒否するということが多かったようだ。

 東京都発達障害者支援センターが平成17年度にかかわった453例の年齢分布は、20歳代が24.3%、30歳代が14.1%、40歳代が4.0%、50歳以上が1.5%であった。家族のみの相談が43.9%、本人と家族の相談が33.1%、本人のみの相談が14.6%であった。453例のうち反社会的行動が問題になったのは25例(5.5%)であったが、激しい問題行動のために家庭崩壊・一家心中などの危機に瀕しているケースが多く、精神科医療機関での対応を拒否されたケースが多かった。


精神医療の能力は万能ではないので拒否せざるを得ないということだろう。病院が悪いというわけではない。だからといって、代わりに引き受けてくれるところも数少ない。対応する機関が無く、宙ぶらりんのようなに状態で家族が苦しんでいるというケースは、データを見る限り無視できる数ではない。対応が困難なケースをどこが引き受けるかということと、対応を困難しないための早期対応がどのくらい有効なのかということを明らかにしていく必要があるのだろう。