精神科の選び方1 ガイドライン

イントロダクション

精神科の選び方について相談をされることが度々あるので、まとめてみたい。 精神科選びというのはかなり難しい。治療方法が複雑なので説明が尽くせないということもあるが、一般的に悪手とされているものでも、会心の一手であることも稀ではない。

精神科の選び方はユーザー側にはニーズのある情報のようだ。 「こんな精神科医がよい」という趣旨のものを書籍やネットニュースなどでも読んだことはあるが、納得のいくものを今のところ読んだことはない。

専門性という意味では、精神科医精神科医選びを指南するのが一番だろう。しかし、精神科医精神科医の選び方についてあまり積極的に発言しない。理由はいくつかある。

  1. 医師だと治療上の責任が生じる。つまり一般論しか述べられない。
  2. 主治医への批判につながることは治療的ではない。
  3. 同業への批判は控えたいあまり乗り気にはなれない。

この3つくらいが理由ではないかと思う。3つ並べたが、1番目の理由が最も大きい。

精神科医と患者の関係で考えるべきなのは3点である。

  1. 精神科医の力量
  2. 精神科医と患者の人間的相性(コミュニケーション)
  3. 患者の治療意欲

今回は1の精神科医の力量を中心に書いていきたい。

精神科に限らず、どの仕事・業界でも上手/下手、できる/できない人はいる。 精神科医にも有能な人と無能な人がいるのは事実である。

本稿では代表的なうつ病(大うつ病性障害)を例にとって説明していこうと思う。

その1 治療ガイドラインを読む

主治医の治療の適切性を判断する最も確実な方法は患者自身が治療ガイドラインを読むことである。 日本では、Mindsガイドラインライブラリに治療ガイドラインが集約されている。

Mindsガイドラインライブラリ
https://minds.jcqhc.or.jp/

治療ガイドラインに書いてある方法を理解し、自身の治療がガイドラインに沿って行われているかを確認する。もし、治療法がガイドラインに沿っていないならば、主治医に理由を尋ねる。

そこで怒りを表す医師や治療ガイドラインとの治療法の違いを説明できない医師は力量が低いと見てよい。 治療ガイドラインをよく知らないという医師も避けた方が良いだろう。

治療ガイドラインは多くの国で行われている科学的研究を基に書かれている。いわゆるEBMである。 従って、どっかの誰かが良いと思った方法を適当に書いているのではなく、記述には多くの科学的エビデンスが伴っている。

方法に科学的根拠があるということも大きな利点であるし、加えて1年目の医師でもできるというのが良い点である。 1年目の医師は頼りないと思う人がいるかもしれないが、治療ガイドライン通り行えば悪くはない結果が出るはずである。

それよりも問題なのは、治療ガイドラインのレベルのことすら把握できていない多くのベテラン医師たちである。 いくら経験を積んでいようが、治療ガイドラインに書いていること(すら)理解できていない医師は、ガイドラインを理解している1年目の医師に劣っていると考えた方がよい。

誤解のないように言っておくと、治療ガイドライン通りの治療が、その患者に最も適切なものとは限らないということだ。 治療ガイドラインはいわば平均的な治療法であり、誰にでも有効だとは限らない。 また、理想的な治療法でもあり、現実は理想通りいかないものである。 ガイドラインに則さない治療でも有効な治療は多い。

治療ガイドラインを理解せずに治療をする医師と、治療ガイドラインは知ったうえで、ガイドラインから外れる治療をする医師の違いは、精神科医本人に治療ガイドラインから逸れた治療をする理由を聞いてみるのが一番良い。優秀な医師は合理的な説明を述べてくれるはずである。

このガイドラインを基準に治療法を評価する方法は最も有効だと思うのだが、大きな欠点がある。 それは、治療ガイドラインは比較的難しい文章で書かれているといことだ。

治療ガイドラインが想定している読者は医学的訓練を受けた医師である。したがって、専門用語や聞きなれない薬の名前などが登場する。医学の知識がなければ、読むのは難しいかもしれない。もちろん、患者向けの冊子というのも作られてはいるが、自分の受けている治療が正しいかがわかるほど詳しくはない。この方法を試してみるのであれば、治療ガイドラインの内容を理解できるまで勉強をする必要がある。

うつ病の治療ガイドライン

うつ病はMindsには採録されておらず、日本うつ病学会のホームページでPDF形式で公開されている。

気分障害の治療ガイドライン https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/index.html

もし、うつ病の日本語で公開されている治療ガイドライン以上の知識が必要な場合には、モーズレイの処方ガイドラインが最も包括的である。

モーズレイ処方ガイドライン第12版 上巻

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  • 作者: David Taylor,Carol Paton,Shitij Kapur,内田裕之,鈴木健文,三村將
  • 出版社/メーカー: ワイリー・パブリッシング・ジャパン株式会社
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モーズレイ処方ガイドライン第12版 下巻

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モーズレイの処方ガイドラインは精神科における投薬治療を包括的に説明しているため、うつ病以外の疾患も掲載されている。

原著の英語版の最新は13版だが、12版と大きな差はないので、日本語でも特に問題はないだろう。

The Maudsley Prescribing Guidelines in Psychiatry

The Maudsley Prescribing Guidelines in Psychiatry

モーズレイの処方ガイドラインに関しては、このブログでも以前に10版の「難治性うつ病への治療法」を訳出したことがある。 http://ides.hatenablog.com/entry/20091204/1259945068

「難治性うつ病への治療法」は、標準的な方法がダメだった場合、このようなアイデアがあるという応用編なので、よほど行き詰まらない限り実施すべきではないし、治療ガイドラインに掲載されている普通の方法で最初は治療をすべきである。