井出草平の研究ノート

ゲーム時間が長いことだけでは生活に問題は生じない

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

  • Van Den Eijnden, R., Koning, I., Doornwaard, S., Van Gurp, F., & Ter Bogt, T. (2018). The impact of heavy and disordered use of games and social media on adolescents’ psychological, social, and school functioning. Journal of Behavioral Addictions, 7(3), 697–706. https://doi.org/10.1556/2006.7.2018.65

研究では、参加者をゲーム利用パターンに基づいて4つのグループ(非利用者、熱中利用者、長時間利用者(Heavy users)、障害的利用者(Disordered users))に分類している。長時間利用者は、ゲーム時間は長いものの依存症状は少ないグループのことである。障害的利用者は、ゲーム時間が長く、かつ依存症状も多いグループである。分析の結果、長時間利用者は、熱中利用者(通常の利用者)と比較して、心理社会的な機能や学校成績に悪影響は見られなかった。一方で、障害的利用者は、熱中利用者と比較して、人生満足度や自尊心が低く、抑うつ気分が高く、学校成績も低いという否定的な結果と関連していた。つまり、ゲーム時間が長いこと自体ではなく、ゲーム時間が長くかつ依存症状を伴うこと(障害的利用)が問題であると示唆している。

IGDの症状は診断ではなく、尺度を用いて評価されています。使用された尺度は、Lemmensら(2015)による「Internet Gaming Disorder Scale (IGD-S9)」。これはDSM-5の9つの基準に基づいた項目について、過去12ヶ月間に経験したかを「はい/いいえ」で回答する形式の質問紙である。この尺度スコアと週あたりのゲーム時間に基づいて、参加者は前述の4つのグループ(非利用者、熱中利用者、長時間利用者、障害的利用者)に分類された。

この研究はオランダの青少年を対象としたユトレヒト大学のDigital Youth Projectの一部として行われたものである。3時点のデータを用いた縦断研究(longitudinal study)である 。
分析対象となったのは、3回の調査すべてに参加した538人の青少年(ベースライン調査には1,019人が参加)。対象者は、調査開始時点(T1)で12歳から15歳の青少年。
3時点(T1, T2, T3)で、1年間隔でデータが収集されおり、一般化線形混合モデル(Generalized Linear Mixed Model, GLMM)が用いられている。これにより、反復測定された心理社会的機能や学校成績の指標が、時間経過とともに4つのゲーム利用グループ間でどのように異なるかが検討されている。

この研究では「ゲームの障害的利用(disordered use of games)」という概念を扱っており、その判断基準はDSM-5のインターネット・ゲーム障害(Internet Gaming Disorder, IGD)の9つの基準に基づいている。 抑うつ気分(depressive mood)はCES-D尺度で測定され、ゲーム利用パターンとの関連を見るための主要な結果変数(従属変数)の一つである。ADHD、不安症(Anxiety)、自閉症については、この研究では測定もコントロールもされていない。

分析モデル(GLMM)においては、性別と教育レベル(職業準備教育か一般中等/大学準備教育か)が共変量(コントロール変数)として投入されている。時間(調査時点)もモデル内の要因として考慮されている。他に測定された結果変数(コントロール変数ではない)としては、人生満足度(BMSLSS)、自尊心(RSES)、学校成績。

要旨

目的:(a)ゲームやソーシャルメディアの強迫的利用を行動嗜癖とみなすべきか否か(Kardefelt-Winther et al、 2017)、(b)インターネット・ゲーム障害(IGD; American Psychiatric Association [APA], 2013)の9つのDSM-5基準が、ゲームやソーシャルメディアの高度に関与した非障害的なユーザーと障害的なユーザーを区別するのに適切であるかどうかについて、本研究では、ゲームやソーシャルメディアの関与した使用と障害的な使用が、青少年の心理社会的幸福と学校の成績に及ぼす影響について調査した。

方法:ユトレヒト大学のデジタル・ユース・プロジェクトの一環として、12~15歳の青少年(N=538)を対象とした3波にわたる縦断的サンプルを利用した。IGD、ソーシャルメディア障害、生活満足度、知覚的社会的能力を含む3つの年次オンライン測定が教室で実施された。学校からは生徒の評定平均値に関する情報が提供された。

結果:ゲームやソーシャルメディアの無秩序な使用の症状は、青年期の生活満足度に悪影響を及ぼし、無秩序なゲームの症状は、青年期の社会的能力の認知に悪影響を及ぼすことが示された。一方、ゲームやソーシャルメディアの多用は、青年の社会的能力の認知にプラスの影響を与えることが予測された。しかし、ソーシャルメディアの多用は、学校の成績の低下も予測した。これらの結果におけるいくつかの性差について考察した。

結論:本研究結果は、ゲームやソーシャルメディアの無秩序な使用の症状が、青少年の心理社会的幸福と学業成績の低下を予測し、行動嗜癖の中核的基準の1つを満たすことを示唆している。