井出草平の研究ノート

ガチャとギャンブルとの類似性

パチンコからスマホゲームのガチャへ人が流れたなどと言われることもあるが、ガチャとギャンブルとの関連は海外でも話題になっている。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov - G. Brooks, L. Clark, 2019, Associations between loot box use, problematic gaming and gambling, and gambling-related cognitions. Addictive behaviors. 96: 26-34. doi: 10.1016/j.addbeh.2019.04.009.

対象となった人たちには、ガチャ(Loot Box)に対する意識は概ね肯定的(「良い点」52.1%、「悪い点」33.3%、「中立的な点」14.6%)であった。ギャンブルとの類似性については、75.7%の人が「ガチャを開けると賭けをするように感じることがある」という質問にYesと答え、68.1%の人が「ガチャはギャンブルの一形態であると思う」としている。この68.1%は対象者が大学生になると86.2%に上昇する。

この論文はややこしい作りなのだが、ガチャへの支出ではなく、ガチャへの依存を計測するために「ガチャ危険指数」(Risky Loot-box Index: RLI)という尺度を作成している。このRLIが従属変数となっている。

ガチャ危険指数(RLI)はギャンブル依存度指数(PGSI)(r = 0.491、p < 0.001)およびギャンブル関連認知スケール(GRCS)とと有意な関連を示している(r = 0.518、p < 0.001)。全体として、ギャンブル関連の変数はRLIスコアの分散の37.1%(p < 0.001)を予測した、と述べられている。

ガチャはギャンブルとの表面的な類似性だけではなく、ガチャを引くことと、ギャンブルに対する信念、問題のあるギャンブル行動が相関していると筆者らは主張している。

方法

オンラインアンケート利用。サンプル1はMTurk、サンプル2は113人の大学生を対象としている。 MTurkはAmazon Mechanical Turkのこと。サンプルは98%以上の良い評価を得た回答者に限定しているとのこと。データの品質を高めるために、MTurkには回答者にはわからない選別の方法があるようだ。異常に早い完了(10分未満であったり、同じ項目ばかりを選ぶなどによって決定しているらしい。(Goodman, Cryder, & Cheema, 2013)

尺度

The Internet Gaming Disorder Scale

インターネットゲーム障害スケール(IGDS)

Risk taking Domain-Specific Risk-Taking(DOSPERT-F)

リスクの高い投資やギャンブル行動(例えば、「競馬で1日の収入を賭ける」)に関連した7ポイントのリッカート尺度で採点された6つの項目が含まれている

Gambling Related Cognitions Scale (GRCS)

コントロールの錯覚、解釈的バイアス、事前依存的コントロール、ギャンブル関連の期待感、ギャンブルを止めることができないとの認識を測定する。

The Darkeand Freedman Beliefs Around Luck Scale(BALS)

運の4つの側面、Good Luck(BALS-GL)、Bad Luck(BALS-BL)、Belief in Luck(BALS-B)、Rejection of Luck(BALS-R)を6点リッカート尺度を用いて測定する。

-Maltby, J., Day, L., Gill, P., Colley, A., & Wood, A. M. (2008). Beliefs around luck: Confirming the empirical conceptualization of beliefs around luck and the development of the Darke and Freedman Beliefs Around Luck Scale. Personality and Individual Differences, 45(7), 655?660. https://doi.org/10.1016/j.paid.2008.07.010. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0191886908002626

The Problem Gambling Severity Index (PGSI)

過去2ヶ月間の問題ギャンブルを評価。

Risky Loot-box Index (RLI)

主因子法を用いて5項目の尺度を作成している。(1)Loot Boxを開けるときのスリル感が購入意欲を高めた、(2)Loot Boxを獲得するために、ゲームを長時間プレイすることが多い、(3)Loot Boxを獲得したり購入したりするために、他の活動や仕事、家事を後回しにした、(4)一度Loot Boxを開けると、別のLoot Boxを開けたくなることが多い、(5)貴重なアイテムを手に入れられなかった後、Loot Boxを購入したことがある。

結果

現在のゲームのプレイを容認している人は全体の97.2%、オンラインプレイを容認している人は95.1%であった。参加者がゲームを始めた平均年齢は8歳(SD=10.4)、ゲームの頻度は「週6~10時間」が平均的だった。ギャンブル行動については、87.4%が過去にギャンブルをした経験があり、53.2%が現在ギャンブルをしており、78.3%がスロットマシンを容認している。

RLIを従属変数とした回帰分析が下記である。

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RLIスコアの分散の37.1%が説明と書かれてあるので、2つ目のモデルが採用されている。
GRCS(ギャンブルのコントロール不全)は関連がなく、BAL-R(運の要素を否定)は関連し、逆に運に関するものBAL-GL、BAL-Bは関連がなく、PGSI(過去2ヶ月間の問題ギャンブル)は関連しており、DOSPERT-F(リスクの高い投資やギャンブル行動)は関連がなかった。ガチャを回している人がギャンブル障害かというと、そうでもないような結果に解釈できる。