井出草平の研究ノート

自閉スペクトラム症の子どもは情動調節がうまくいかず、学校の社会関係に失敗し、学校から離れインターネットゲーム障害になる

という傾向があるという話だ。

自閉症の特性=感情調節不全→学校とのつながりが希薄に→学校への帰属意識が減少→インターネットゲーム障害になる、という仮説である。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

  • Liu S, Yu C, Conner BT, Wang S, Lai W, Zhang W, 2017, Autistic traits and internet gaming addiction in Chinese children: The mediating effect of emotion regulation and school connectedness. Research in Developmental Disabilities, 68: 122-130.

データ

18ヶ月間の縦断的研究。研究には、合計420名の中国人児童(男子220名、平均年齢=9.74±0.45歳)が参加。自閉症特性は小学4年生で測定し、情動調節、学校でのつながり、IGAは小学4年生と5年生の両方で測定。

尺度

自閉的特性

Skuse, Mandy and Scourfield (2005)によって開発されたSocial and Communication Disorders Checklist (SCDC)によって測定された。

  • Skuse, D. H., Mandy, W. P., & Scourfield, J. (2005). Measuring autistic traits: Heritability, reliability and validity of the Social and Communication Disorders Checklist. The British Journal of Psychiatry, 187(6), 568–572.

Hsiao, Tseng, Huang, and Gau(2013)は、自閉症特性のレベルが高い生徒は、教師に対してより否定的な態度を示し、クラスメートとの交流も否定的である。学校とのつながりがIGAの減少に保護的な役割を果たすことが先行研究で示されている(Li et al. 2013, Zhu et al. 2015)。

インターネットゲーム依存症

インターネットゲーム障害(IGA)はGentile(2009)のPathological Video Game Use Questionnaire。

  • Gentile, D. (2009). Pathological video-game use among youth ages 8–18: A national study. Psychological Science, 20(5), 594–602.

感情調節

感情調節はGross and John (2003)によって開発されたEmotion Regulation Questionnaire (ERQ)。

  • Gross, J. J., & John, O. P. (2003). Individual differences in two emotion regulation processes: Implications for affect, relationships, and well-being. Journal of Personality and Social Psychology, 85(2), 348–362.

感情の調節と学校のつながりとの関係については、多くの研究で裏付けられている(Denham, 2006; Eisenberg, Valiente, & Eggum, 2010; Shieldsら, 2001;Ursache, Blair, & Raver, 2012)。例えばEisenberg et al.(2010)は、感情を調節する能力が教師や仲間との関係に関係していることを報告している。同様に、Ursache et al.(2012)は、子どもの感情調節を促進することが、教師や仲間とのポジティブな交流を促進するのに役立つことを発見した。また、自閉症の特性が情動調節に負の影響を与えている可能性があることが示唆された。

学校とのつながり

School Engagement Scale(Wang,Willett & Eccles, 2011)のEmotional Engagementサブスケールで測定され、教師、クラスメート、学校との情緒的関係を反映した9つの項目を用いている(例:「学校では安全で幸せだと感じている」)。

  • Wang, M. T., Willett, J. B., & Eccles, J. S. (2011). The assessment of school engagement: Examining dimensionality and measurement invariance by gender and race/ ethnicity. Journal of School Psychology, 49, 465–480.

学校とのつながりは、学校への帰属感や教師やクラスメートとの感情的な親近感として定義されている(Fredricks, Blumenfeld, & Paris, 2004)。また、差別的行動への関与に対する保護因子として繰り返し同定されている(Chapman, Buckley, Sheehan, Shochet, & Romaniuk, 2011; Li & Lerner, 2011; Wang & Fredricks, 2014)。社会的統制理論(Hirschi,1969)によると、学校の先生やクラスメートに強い感情的なつながりを感じている子どもたちは、それらが逸脱した活動に従事することを防ぐために機能する可能性があり、安全で気遣われていると感じる可能性が高い。

分析・結果

相関

自閉症特性は感情調節および学校のつながりと有意に負の関係がある(r1=-0.20,p<0.01; r2=-0.14,p<0.01)。自閉症の特性は感情調節の低下および学校のつながりの低下と関連している。さらに、自閉症特性はインターネットゲーム障害と有意に正の相関を示していた(r=0.12,p<0.01)。自閉症の特性の高さはインターネットゲーム障害のリスク増加と関連していることが示唆された。最後に、性別はインターネットゲーム障害と有意に正の関係を示し(r=0.26、p<0.01)となり、女子よりも男子に多いことが示唆された。刺激欲求(Sensation seeking)もまた、インターネットゲーム障害と有意に正の関係があり(r = 0.16,p<0.01)であり、これは以前の結果と一致している(Mehroof & Griffiths, 2010)。

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SEM

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媒介モデルの標準化された経路係数を図1に示す。また、ブートストラップ解析により、仮説化された間接効果(IE)の有効性が確認された。(1)T1自閉症特性→T2感情調節→T3学校のつながり→T4IGA(標準化IE=0.02、95%CI: 0.004-0.046)、(2)T1自閉症特性→T3学校のつながり→T4IGA(標準化IE=0.01、95%CI: 0.002-0.016)と、仮説化された間接効果(IE)の有意性が確認された。

結論

感情調節能力を向上させることは、自閉症特性の高い子どもたちの学校とのつながりを強化するための効率的な方法であり、最終的にはIGA発症のリスクを減少させることになると示唆されている。