井出草平の研究ノート

インターネット嗜癖の青年における微細構造の異常

journals.plos.org

  • Yuan, K., Qin, W., Wang, G., Zeng, F., Zhao, L., Yang, X., Liu, P., Liu, J., Sun, J., Von Deneen, K. M., Gong, Q., Liu, Y., & Tian, J. (2011). Microstructure Abnormalities in Adolescents with Internet Addiction Disorder. PLoS ONE, 6(6), e20708. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0020708

インターネット嗜癖の期間と灰白質、白質の異常について関連を取ったところ、灰白質では背外側前頭前皮質、右側前帯状皮質、補足運動野の体積が小さく、白質では内包後脚(posterior limb of the internal capsule )の異方性度値と関連がみられた。

ワンショット(クロスセクショナル)データであるため、論文の要旨のように、インターネット嗜癖によって脳の構造が変化したと言い切るのは間違いである。少なくとも2回の測定をしない限り、わからないことを言い切っているところが大きな問題である。また、灰白質・白質の異常は精神疾患で非常によくあることであるため、構造化面接が必要であり、そもそもインターネット嗜癖に関しても、構造化面接をしていない点で、欠陥が残る論文である。

要旨

背景

最近の研究から、インターネット嗜癖障害(IAD)は脳灰白質の構造異常と関連していることが示唆されている。しかし、インターネット嗜癖が主要な神経線維経路の微細構造の完全性に及ぼす影響を検討した研究はほとんどなく、インターネット嗜癖の期間による微細構造の変化を評価した研究もほとんどない。

方法論/主要所見

我々は、最適化されたボクセルベース・モルフォメトリー(VBM)法を用いてIADの青年(N=18)の脳の形態を調査し、拡散テンソル画像法(DTI)を用いて白質分画異方性(FA)の変化を調べ、これらの脳構造指標をIADの期間と関連づけた。その結果、IAD患者における脳の複数の構造変化が証明された。VBMの結果、両側背外側前頭前皮質(DLPFC)、補足運動野(SMA)、眼窩前頭皮質(OFC)、小脳、左吻側ACC(rACC)の灰白質体積の減少が示された。DTI解析では、左の内嚢後縁(PLIC)のFA値が増強し、右の海馬傍回(PHG)内の白質のFA値が減少した。DLPFC、rACC、SMAの灰白質体積およびPLICの白質FA変化は、IADの青年におけるインターネット嗜癖の期間と有意な相関があった。

結論

本研究の結果より、長期にわたるインターネット嗜癖は脳構造の変化をもたらし、IADの慢性的な機能障害につながることが示唆された。本研究は、IADの潜在的な脳への影響にさらなる光を当てる可能性がある。

本文から

2.1 対象

BeardとWolfによる修正Young Diagnostic Questionnaire for Internet addiction (YDQ)基準[16]、[29]に従って、IADの1年生と2年生18名(男性12名、平均年齢=19.4±3.1歳、学歴13.4±2.5年)を本研究に参加。
IAD対象者は1日10.2±2.6時間をオンラインゲームに費やしていた。1週間のインターネット利用日数は6.3±0.5日であった。また、IAD被験者のルームメイトや同級生から、彼らがしばしば夜遅くまでインターネットをしていると主張し、その結果にもかかわらず他人の生活を妨害しているという情報を得た。
自己評価不安尺度(SAS)と自己評価抑うつ尺度(SDS)を用いて、検査当日の参加者全員の情動状態を評価した。

3.1 VBMの結果

最適化されたVBMを用いて、局所灰白質容積の変化をノンパラメトリックに評価した。多重比較の補正は、クラスターに基づく閾値法を用いて行った。IAD患者とマッチさせた健常対照者のVBM比較では、年齢、性差の影響、頭蓋内総容積を含む潜在的交絡変数をコントロールした後、いくつかのクラスター、すなわち両側背外側前頭前皮質DLPFC、補足運動野(SMA)、眼窩前頭皮質 OFC、小脳、左吻側ACC(rACC)における灰白質容積の減少が示された。右DLPFC、左rACC、右SMAの灰白質体積は、インターネット嗜癖の月数と負の相関を示した(r1 = -0.7256, p1 < 0.005; r2 = -0.7409, p2 < 0.005; r3 = -0.6451, p3 < 0.005)。図1および表2に示されるように、健常対照者より灰白質体積が大きい脳領域はなかった。

A. IAD被験者における灰白質体積の減少、(1-p)補正p値画像。背景画像はFSLの標準MNI152_T1_1mm_brainテンプレート。
B. DLPFC、rACC、SMAの灰白質体積は、インターネット嗜癖の期間と負の相関があった。

3.2 DTIの結果

DTIデータ解析に関しては、クラスターベースの閾値法を用いて多重比較の補正を行った。TBSSの結果、図2および表2に示すように、IAD対象者では健常対照者と比較して左内被殻後縁(PLIC)のFA値が亢進(IAD:0.78±0.04、対照:0.56±0.02)し、右海馬傍回(PHG)内の白質のFA値が低下(IAD:0.31±0.04、対照:0.48±0.03)していた。さらに、左PLICのFA値はインターネット嗜癖の期間と正の相関を示す傾向がみられたが(r=0.5869、p<0.05)、右PHGのFA値とインターネット嗜癖の期間との間には有意な相関はみられなかった。

A. IAD被験者におけるFA異常を示す白質構造、(1-p)補正p値画像。背景画像はFSLの標準FMRIB58_FA_1mmテンプレート。赤-黄色のボクセルは、健常対照に比べてIADでFAが有意に低下した領域を表す。青-水色のボクセルはIADにおけるFAの増加を表す。
B. PLICのFAはインターネット嗜癖の期間と正の相関があった。

結論

われわれは、IAD被験者が脳に複数の構造的変化を有することを示す証拠を提供した。いくつかの脳領域の灰白質萎縮と白質FAの変化は、インターネット嗜癖の期間と有意に相関していた。これらの結果は、少なくとも部分的には、IADにおける認知制御の機能障害と解釈できる。前頭前野の異常は、過去の物質乱用に関する研究 [23], [48], [80], [81] と一致していたことから、IADと物質使用には部分的に重複するメカニズムが存在する可能性が示唆された。我々は、今回の結果がIADの理解を深め、IADの診断と予防の改善に役立つことを期待したい。