井出草平の研究ノート

気分反応性の定義

気分反応性とはよいことがあれば気分が上向き、抑うつ状態が改善する、もしくはできなかったことが出来ると言ったことを指す用語。もちろん、逆に嫌なことが起こる(予想できる)と気分が下がることもある。要するに気分の上下を指す言葉である。DSM-5ではWith atypical features の項目基準Aにあたるものだ。
「新型うつ」では、職場には来れないが、遊びにいくことができる等の定義がされる。だからこそ、批判の的になるのだが、そもそもこの気分反応性について押さえておきたい。

気分反応性とは非定型うつ病に必ず登場する用語である。定義そのものはコロンビア学大学によって行われており、DSM-IVDSM-5でも非定型の類型は残っていて、コロンビア大学の考え方が記載されてる。

気分反応性とはどういうものかを見るには、コロンピア大学によって作成された「非定型うつ病評価スケール」(atypical depressive disorder scale:ADDS)という半構造化面接を見るのが一番わかりやすい。

ADDSの原盤はStewart(1993)にあり、日本語訳は多田ほか(2005)にある。日本語の翻訳版の気分反応性のところだけ抜き出しておこう。

I 気分の反応性
何かよい出来事がまわりにあった時気分が持ち上がるかどうか,その程度について質問する.
質問例:この3カ月間に,もし誰かがあなたに親切にしてくれたり,なにか素敵なことが起こったり,誰かがあなたを励まそうとしてくれた時,あなたは一時的にでも元気になりますか?
100は全く落ち込みのない気分,0はこの3カ月間の全体的気分として,上記のことがあった時あなたがどの程度反応するか教えてください.
誰かが,あなたやあなたの子供を誉めたらどうなりますか? 
誰かが,あなたが本当に行きたいと思っていた場所に招待してくれたらどうなりますか?
金銭的に成功したり,経済上の業績が上がった時,あるいはその他の好ましい事柄が起こった時,仲の良い友人や,子供があなたをに励まそうとした時はどうですか?
あなたは少なくとも一時的にせよこれらのことに反応することが出来ますか?
特別なテレビ番組,音楽,好きな本によってはどうですか?
あなたの通常の,あるいは最も典型的な反応はどうですか,最大の反応はどうですか?

(通常の反応_____% 最大の反応_____ % としbが50%以上の時反応ありとする)

気分反応性については前のエントリで簡単にコロンビア大学ニューサウスウェールズ大学、ピッツバーグ大学、ソフト双極スペクトラムの4つの学派について検討している。
http://d.hatena.ne.jp/iDES/20130616/1371367294

4つの学派についての総説が日本語で書かれているので、詳しくはこちらで。
大前 晋「非定型うつ病という概念 : 4種の定義」『精神神經學雜誌』 112(1), 3-22, 2010.
http://ci.nii.ac.jp/naid/10026309886


参照文献
Stewart JW, McGrath PJ, Rabkin JG, Quitkin FM., Atypical depression. A valid clinical entity? Psychiatr Clin North Am. 1993 Sep;16(3):479-95.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23762602

多田 幸司, 山吉 佳代子, 松崎 大和, 小島卓也ほか,「非定型うつ病の症例研究」『精神神經學雜誌』,107(4), 323-340, 2005.
http://ci.nii.ac.jp/naid/10015683924