井出草平の研究ノート

ブースター接種の有効性を確かめるためにドイツのデータを分析してみた

高齢者であればブースター接種は間違いなくした方がよいというデータは複数ある。ここに議論の余地はないだろう。
問題は、現役世代はどうなのか、である。自分自身が現役世代に属しており、重症化リスクにつながる基礎疾患もなく、仮に感染しても重症化になる確率は低い。ワクチンの副反応もなかったわけではないので、カジュアルにブースター接種をしてもいい、という感じでもない。
結局、どうすればいいのかわからなかったので、データを見つけてきて自分で分析して、ブースター接種を受けるかどうかを考えてみた。私的メモである。

結論から言うと、ブースター接種は入院や重症化のみならず、感染予防にも大きな効果があり、ブースター接種によって感染者を1/4以下に抑え込んでいる可能性が高いことがわかった。

イントロから方法まで

実験室のデータはいろいろ出ているし、ブースター接種によるS抗体値が増加することはずいぶん前に発表されていたが、武漢野生種のS抗体が増加したところでオミクロン変異にどの程度効果があるのかは不明である。欲しいのは疫学レベルのエビデンスだ。南アのデータはあてにならず、デンマークのデータは判断ができるレベルになかった。しかし、ドイツのロベルト・コッホ研究所の2022/02/03のレポートで18-59歳のブースター接種者の感染者数の報告がまとめられていたので、ドイツのデータを分析することにした。ちなみに、ドイツのブースター接種率は58.4%である。日本に比べ接種はかなり進んでいる国である。

分析といっても、カイ二乗検定をして、オッズ比を出すだけしかしていないが、発表されているデータはさっくりとしたもので、これ以上、料理の仕様がないし、私的な判断には十分だろう。

データソースは以下のとおり。

ワクチン接種回数ごとの感染者数はロベルト・コッホ研究所の2022/02/03のレポート。
Wöchentlicher Lagebericht des RKI zur Coronavirus-Krankheit-2019 (COVID-19) 03.02.2022
https://www.rki.de/DE/Content/InfAZ/N/Neuartiges_Coronavirus/Situationsberichte/Wochenbericht/Wochenbericht_2022-02-03.pdf

ワクチン接種者数は同じくロベルト・コッホ研究所のレポート。
Digitales Impfquotenmonitoring zur COVID-19-Impfung (2022/02/11) https://www.rki.de/DE/Content/InfAZ/N/Neuartiges_Coronavirus/Daten/Impfquoten-Tab.html

Tabelle mit den gemeldeten Impfungen nach Bundesländern und Impfquoten nach Altersgruppen (11.2.2022, Tabelle wird montags bis freitags aktualisiert)
https://www.rki.de/DE/Content/InfAZ/N/Neuartiges_Coronavirus/Daten/Impfquotenmonitoring.xlsx?__blob=publicationFile

年齢ごとの人口は政府の統計局のデータベースであるGENESIS-ONLINEより2021/12/31時点の人口。
GENESIS-ONLINE - destatis.de
https://www-genesis.destatis.de/genesis//online?operation=table&code=12411-0005&bypass=true&levelindex=1&levelid=1644941954032#abreadcrumb

18-59歳のブースター接種の効果--サマリ

有症候

有症候つまり感染症状があったか否かである。

有症候 オッズ比 chi-sq test P-value
2回接種>ブースター  4.34/0.23 < 2.2e-16
未接種>ブースター 2.88/0.35 < 2.2e-16
未接種<2回接種 0.66/1.51 < 2.2e-16

有症候はブースター接種者は他の2群と比べても有症候者数が低かったが、未接種者より2回接種者の方が高かった。 未接種者はワクチンを拒否しているだけではなく、ワクチンが打てない者が含まれており、社会生活を制限していることが推測できる。

未接種者にはワクチンに反対して接種しない人もいれば、種々の理由で接種できない人もいる。
均質なグループではないので、2回接種者を基準に考えるべきであろう。

2022年2月時点でのドイツ(ブースター接種率58.4%)でも、ブースター接種者は2回接種者に比較して4.34倍感染者が少ない。つまり、オミクロン変異が主流となっている状況下でもブースター接種で感染者は1/4以下には抑え込んでいる可能性が高い。

「抑え込んでいる」と書けないのは、ワクチン接種回数ごとの感染者の比較であるため、この数字はブースター接種による防御能力とイコールの数字ではないためだ。例えば、ブースター接種者の活動量、暴露機会が2回接種者よりも平均して高ければ、ブースター接種の効果はさらに高くなる。人々の行動、脆弱性などさまざまな要因が関係しているので、あくまでもざっくりとした計算にすぎない。

入院

入院 オッズ比 chi-sq test P-value
2回接種>ブースター  6.31/0.16 < 2.2e-16
未接種>ブースター 3.00/0.33 < 2.2e-16
未接種>2回接種 1.25/0.80 0.041

入院に関しては、ブースター、2回接種、未接種の順番に少なく、未接種に比べてブースター接種者は6.31倍少ない、つまり、1/5以下に抑え込んでいた。 入院に関してもブースター接種は有効である可能性は高い。

所感

入院に関してはメモリーT細胞が関係しているので概ね予想通りだが、S抗体が関係する感染予防に関しても高い効果があることは個人的には意外だった。 ここから導かれるのは、18-59歳の現役世代に含まれる人はできるだけブースター接種をした方がよいということだ。もちろん心筋症・心膜炎などの副作用も考慮すべきであるため、感染予防効果だけでブースター接種の正当性は結論付けられない。ただ、僕は、心筋症・心膜炎のリスクを考えなくてもよいカテゴリーに属しているため、ブースター接種をすることにした。

有症候

カイ二乗本堤にはイェーツの補正、オッズ比はWald法を用いている。

18-59歳 2回接種vs.ブースター

ct1a <- matrix(c(24035, 13342, 10989044, 26454305), ncol=2)  
ct1a
res1a<- chisq.test(ct1a)
res1a
res1a$stdres
library(epitools)
oddsratio.wald(ct1a)$measure
X-squared = 21987, df = 1, p-value < 2.2e-16
          odds ratio with 95% C.I.
Predictor  estimate    lower    upper
  Exposed1 1.000000       NA       NA
  Exposed2 4.336703 4.245852 4.429497

18-59歳 未接種vs.ブースター

ct1b <- matrix(c(11383, 13342, 7829204, 26454305), ncol=2)  
ct1b
res1b<- chisq.test(ct1b)
res1b
res1b$stdres
oddsratio.wald(ct1b)$measure
X-squared = 7542.6, df = 1, p-value < 2.2e-16
          odds ratio with 95% C.I.
Predictor  estimate    lower   upper
  Exposed1   1.0000       NA      NA
  Exposed2   2.8828 2.811566 2.95584

18-59歳 未接種vs.2回接種

ct1c <- matrix(c(11383, 24035, 7829204, 10989044), ncol=2)  
ct1c
res1c<- chisq.test(ct1c)
res1c
res1c$stdres
oddsratio.wald(ct1c)$measure
X-squared = 1303.4, df = 1, p-value < 2.2e-16
          odds ratio with 95% C.I.
Predictor   estimate     lower    upper
  Exposed1 1.0000000        NA       NA
  Exposed2 0.6647447 0.6500726 0.679748

入院

18-59歳 2回接種vs.ブースター

ct3a <- matrix(c(189, 72, 11012890, 26467575), ncol=2)  
ct3a
res3a<- chisq.test(ct3a)
res3a
res3a$stdres
oddsratio.wald(ct3a)$measure
X-squared = 230.84, df = 1, p-value < 2.2e-16
          odds ratio with 95% C.I.
Predictor  estimate    lower    upper
  Exposed1 1.000000       NA       NA
  Exposed2 6.308733 4.809031 8.276119

18-59歳 未接種vs.ブースター

ct3b <- matrix(c(168, 189, 7840419, 26467458), ncol=2)  
ct3b
res3b<- chisq.test(ct3b)
res3b
res3b$stdres
oddsratio.wald(ct3b)$measure
X-squared = 117.27, df = 1, p-value < 2.2e-16
          odds ratio with 95% C.I.
Predictor  estimate    lower   upper
  Exposed1 1.000000       NA      NA
  Exposed2 3.000685 2.437602 3.69384

18-59歳 未接種vs.2回接種

ct3c <- matrix(c(168, 189, 7840419, 11012890), ncol=2)  
ct3c
res3c<- chisq.test(ct3c)
res3c
res3c$stdres
oddsratio.wald(ct3c)$measure
X-squared = 4.1786, df = 1, p-value = 0.04094
          odds ratio with 95% C.I.
Predictor  estimate    lower    upper
  Exposed1  1.00000       NA       NA
  Exposed2  1.24856 1.014265 1.536977