井出草平の研究ノート

精神障害と灰白質の減少に関するメタアナリシス

精神障害の全脳を対象としたボクセルベース・モルフォメトリー(voxel-based morphometry: VBM)研究のメタアナリシス。

www.ncbi.nlm.nih.gov

  • Goodkind M. et al. 2015, Identification of a Common Neurobiological Substrate for Mental Illness, JAMA Psychiatry. 72(4): 305-315.

メタアナリシスの基準

(1)精神科診断を受けた患者の灰白質の解析にVBMを使用している、(2)これらの患者と健常者の対照群との比較を含む、(3)全脳解析を実施している、(4)定義された定位空間(例えば、Talaraich spaceもしくは、Montreal Neurological Institute space)での座標を報告している、という条件で選択。

診断と対象人数

6つの診断群(統合失調症双極性障害うつ病、依存症、強迫性障害、不安症)、193件の研究、15,892人のメタアナリシス。

結果

精神障害の患者の大部分(85%)は、健常対照群と比較して灰白質が減少していた。 灰白質が減少していたのは両側前島(Bilateral Anterior Insula)、前帯状皮質背側部(dACC: dorsal Anterior Cingulate)、前頭前野背内側部(Dorsomedial Prefrontal Cortex)、前頭前野腹内側部(Ventromedial Prefrontal Cortex)、視床(Thalamus)、扁桃体(Amygdala)、海馬(Hippocampus)、上側頭回(Superior Temporal Gyrus)、頭頂弁蓋(Parietal Operculum)(図2A、補足の表3)。対照的に、患者の灰白質の増加は線条体のみで認められた(補足の図1Aと表3)。

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精神病性障害と非精神病性障害の共通性

精神病診断群/非精神病診断群とも両群の両側の前島(anterior insula)と前帯状皮質背側部(dACC: dorsal Anterior Cingulate)に有意な灰白質の消失があった(図2B、補足表4-6)。 ある領域での灰白質欠損の存在は、他の領域での灰白質欠損の確率よりも高い確率を予測した(カイ二乗>4.3 ; P < 0.05, for all)。 対照的に、患者の線条体(Striatum)における灰白質の増加は精神病性障害の診断群でのみ明らかであった(補足図1B、補足表4)。

精神病性障害と非精神病性障害の比較

精神病性障害では内側前頭前野(Medial Prefrontal Cortex)、島(Insula)、視床(Thalamus)、扁桃体(Amygdala)の灰白質の消失が大きい(図3A、表7)。また、線条体(Striatal)での灰白質の増加が大きい(図3B、表8)。

非精神性障害を内発性(うつ病[MDD]、強迫性障害[OCD]、不安症[ANX])と、外発性(物質使用障害)、双極性障害のの3つのグループに分けて比較した。内発性障害では、外在化性障害(図3A、補足の表1)や双極性障害(図4、補足の表8)と比較して、海馬(Hippocampal)、扁桃体(Amygdala)の灰白質の喪失が大きかった。この効果の多くは大うつ病性障害の群によって起こっていて、他の内発性障害、外在化、双極性障害よりも大きな海馬と扁桃灰白質において灰白質の損失を起こしていた。

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診断、年齢、投薬、併存疾患の影響

左前島(Left Anterior Insula)、右前島(Right Anterior Insula)、前帯状皮質背側部(dACC: dorsal Anterior Cingulate)の3領域に関して、灰白質減少の確率を示す。

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精神病性障害の方が灰白質の減少がみられる確率が高かった。また、発症時年齢(106研究で報告)または罹患期間(148研究で報告)は関連がなかった。

抗精神病薬の服用が線条体における灰白質の増加の原因

薬物の影響について。
非精神病診断群では、64%の研究で薬物治療を受けた患者が含まれていたが、これは島皮質(Insula)、前帯状皮質背側部における灰白質減少とは関連がなかった。精神病診断群では、90%の研究で薬物療法を受けた患者が含まれていおり、同じく薬物療法灰白質減少を予測していない。抗精神病薬の服用は線条体灰白質の増加と関連しており、精神病性障害群でのみ線条体灰質が増加していた。

認知症との関連

行動変化型の前頭側頭型認知症は前島(Anterior Insula)と前帯状皮質背側部(dACC: dorsal Anterior Cingulate)での灰白質の減少が知られており、早期にはに精神障害と間違われることもある。