国際疾病という言葉を作ったのは誰か?

「国際疾病」という言葉がゲーム障害に関連して使われている。もちろん間違いである。

国際疾病分類

国際疾病という言葉はWHOの「国際疾病分類」の形容詞の掛かりを誤解して生まれた言葉だと推測できる。

ゲーム障害が含まれる診断基準であるICD-11のICDとは英語ではInternational Classification of Diseasesである。国際(International)が掛かっているのは分類(Classification)である。国際的な疾病分類ということだ。日本語は国際疾病分類なので、国際がどこに掛かるのかがわからず「国際疾病の分類」と解釈した人がいたということである。

国際的な疾病だと国を超えてしまうグローバルな疾病という意味になり、おかしな意味になる。十分に日本語を理解する能力があれば、怪しく思うはずだ。

確かに、言葉の間違いだとも言えなくもない。しかし、知らない言葉があれば、調べるものではないだろうか。そのまま調べずに使うというのは、他の部分に関しても同じだということだ。そういう人の仕事は、なんとなく整ってはいるが、理解して書かれていないので、至る所に問題が生じている。

そういった言葉が報道や政治、教育の中で流通しているのだから、言葉の間違い一つの問題に過ぎないのではなく、かなり恐ろしい問題のように思う。

ICDの正式名称

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ICD-10の段階ではちなみに国際疾病分類(International Classification of Diseases)は略称で「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)が正式な名称とされている。

よくある誤解の一つである。

国際疾病の最古の用例と作成者

「国際疾病」という言葉が生まれたのはゲーム障害がICD-11に収録されることになるどこかの時点であるのは間違いない。新聞のデータベースを検索とこれは一目瞭然でゲーム障害の記事以外には登場しない言葉だからだ。インターネット、データベースを通じて最古の使用例は毎日新聞の社説2018年9月7日のものであった。

メディアでも頻出していることから、記者による誤解から始まったのではなかとも考えられるが、その仮説だとゲーム障害関連の記事にしかこの言葉が登場しないことが説明できない。ICD-11に登録されている疾病や関連問題は何千とあるのだから、2018年になって、しかも、ゲーム障害にだけ誤用がされるというのは不自然である。ということは、ゲーム障害の関係者が記者に使った、使用を促した言葉だと考えた方が良いのではないだろうか。

香川県での誤用例

香川県のネット・ゲーム規制条例関連の資料を読んでいると頻繁に目にしたので気になっていた。例えば、香川県教育委員会が出した「ネット・ゲーム依存予防対策学習シートについて」に次のような記述がある。

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ゲーム障害の定義が書いてある下に別のとろにある「チェックシートで5項目以上あてはまる項目があればゲーム障害の疑いがあります」とあるのも不誠実だ。この枠内の4つを満たすとゲーム障害になるのだから「この4項目を満たせば」と書けばいいのだが、そうは書かない。なぜなら、チェックシートよりもゲーム障害の診断のハードルはかなり高いからだ。

チェックシートはヤングのインターネット依存のものなので、インターネット依存のスクリーニングでゲーム障害の疑いを出そうとしていることになる。かなりデタラメな作りになっている。

スポーツ庁日本学術会議

先日、山根信二さんにスポーツ庁日本学術会議が国際疾病が教育系で使われる原因ではないかということを教えていただいた。

mainichi.jp

毎日新聞の見出しに「eスポーツ」はスポーツかと書いてあるように、eスポーツの良いところや悪いところを挙げて検討するという内容である。その「提言」の中に「国際疾病」という言葉が出てくる。

回答 科学的エビデンスを主体としたスポーツの在り方(令和2年(2020年)6月18日 日本学術会議
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-k290.pdf

提言 科学的エビデンスを主体としたスポーツの在り方(令和2年(2020年)6月18日 日本学術会議
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t290-5.pdf

世界保健機関は 2019年5月にゲーム障害(gaming disorder)を国際疾病に認定し、これを記載した国際疾病分類の第11回改訂版が 2022年1月に有効となる。 (提言p.1)
一方で懸念されるのは、ゲームへの依存である。2019年5月、WHOはゲームのやり過ぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害」を国際疾病として正式に認定(提言p.15)

国際疫病

「回答」の中には「国際疫病」という表現も出てくる。

世界保健機関(WHO)はゲームのやり過ぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害」を国際疫病として正式に認定(回答p.7)

誤字かもしれないが、疫病とはplague/epidemicで感染性の伝染病である。国際的な伝染病pandemicという意味になるので、いま流行している新型コロナのようなものになっていまう。

国際疾病、国際疫病なんて書いている報告書は大丈夫なのだろうか。

インターネットで探れる「国際疾病」

以下では、インターネットで探れる「国際疾病」の用例を集めてみた。インターネットで探す限りは、ニュースメディアのCNET JapanITmediaが旧い用例だった。

CNET Japan(2019/05/27)

japan.cnet.com

世界保健機関、「ゲーム障害」を国際疾病に認定

ITmedia(2019/05/27)

www.itmedia.co.jp

世界保健機関(WHO)は5月25日(現地時間)、「ゲーム障害(gaming disorder)」を国際疾病として正式に認定した。

四国新聞「ゲーム依存、国際疾病に認定」(2019/05/29)

四国新聞「『ゲーム依存、国際疾病に認定』 久里浜医療センター樋口院長に聞く 『香川モデル確立を』」
-WHOがゲーム障害を依存症の一つとして正式認定した。率直な感想を。
(樋口)とても喜ばしい。ゲーム産業が盛んな韓国や米国も認定に賛同したことは、苦しむ患者が世界中で増え、問題が深刻化しているということを表している。
https://www.freedu.jp/column/game-3/

久里浜医療センターの樋口進さんの登場する記事でも国際疾病という言葉はよく登場する。なぜなのだろうか。

時事ドットコムニュース【図解・行政】「ゲーム障害」とは(2019/11/27)

www.jiji.com

世界保健機関(WHO)が5月、新たな依存症として正式に国際疾病に分類した。

東京電機大学(2020/06/05)

www.dendai.ac.jp

栗城眞也研究員、小林浩名誉教授らのゲーム障害に関する論文が「PLOS ONE」に掲載
我が国はもとより世界的な問題となっている若年者のゲーム依存(2019年WHOは“ゲーム障害”を国際疾病に認定)について

こちらの研究にも樋口進さんが参加している。なぜなのだろうか。

新聞データベースにおける国際疾病

毎日新聞 社説(2018/09/07)

社説:中高生ネット依存が拡大 現状を放置してはならぬ
ゲーム障害は、世界保健機関(WHO)が6月、新たな病気として国際疾病に分類し、来年5月の総会で正式決定する見通しだ。疾病とされることで治療法の確立につながると期待されるが、ゲーム業界からは反発の声も上がっている。

この記事がデータベースでの最古の使用例である。インターネットでも2018年の使用例がないので、毎日新聞のこの社説を書いた記者に聞けば、誰が喧伝し始めた言葉かわかるかもしれない。つまり、この社説を書くときにゲーム障害の専門家に取材をしたはずで、誰に話を聞いたかである。

日経新聞(2019/05/25)

「ゲーム障害」を国際疾病に認定 WHO、治療研究の前進期待
 【ジュネーブ=細川倫太郎】世界保健機関(WHO)は25日、ゲームのやり過ぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害」を国際疾病として正式に認定した。

読売新聞(2019/10/06)

「ゲーム障害」解決策を探る 松江で来月講演会=島根
世界保健機関(WHO)が昨年6月、ゲーム障害を国際疾病に認定し

朝日新聞には「国際疾病」を含む記事は存在しなかった。