井出草平の研究ノート

パソコンより紙とペンで学習した方が記憶に残るとハンセン先生はいうが、論駁する論文が出ている件

ハンセン先生のスマホ攻撃は、パソコンにも向けられている。

米国の研究では、学生にTEDトークを視聴させ、一部の学生には紙とペン、残りの学生にはパソコンでノートを取らせた。すると、紙に書いた学生の方が講義の内容をよく理解していた。必ずしも詳細を多数覚えていたわけではないが、トークの趣旨をよりよく理解できていた。この研究結果には、「ペンはキーボードよりも強し--パソコンより手書きでノートを取る利点」という雄弁なタイトルがついた。(p.98)

引用された研究は下記のものである。

  • Mueller, P. A., & Oppenheimer, D. M. (2014). The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking. Psychological Science, 25(6), 1159–1168. https://doi.org/10.1177/0956797614524581

パソコンやスマホで学習しても学習効果は上がらない、昔ながらの紙とペンを使った学習が勝る、という論拠になる研究だ。
全国のパソコン嫌い、GIGA端末での学習を嫌っている人々が歓喜しそうな内容である。

この研究に対して、再現実験が2021年に行われている。

  • Urry, H. L., Crittle, C. S., Floerke, V. A., Leonard, M. Z., Perry, C. S., Akdilek, N., Albert, E. R., Block, A. J., Bollinger, C. A., Bowers, E. M., Brody, R. S., Burk, K. C., Burnstein, A., Chan, A. K., Chan, P. C., Chang, L. J., Chen, E., Chiarawongse, C. P., Chin, G., … Zarrow, J. E. (2021). Don’t Ditch the Laptop Just Yet: A Direct Replication of Mueller and Oppenheimer’s (2014) Study 1 Plus Mini Meta-Analyses Across Similar Studies. Psychological Science, 32(3), 326–339. https://doi.org/10.1177/0956797620965541

再現は失敗したようだ。つまり、パソコンと手書きのあいだで、記憶の定着に違いは見いだせなかった。

スマホ脳』の原著が書かれたのは2019年なので、ハンセン先生がこの研究を読むことは不可能だ。しかし、2023年に生きている私たちはこの研究を読むことができる。
都合のいいデータだけを取り上げることをチェリーピッキングというが、チェリーピッキングをして、パソコンで勉強するよりも、昔ながらの紙とペンを使った学習が良いというエビデンスがある、なんて馬鹿げたことは言わないでおこう。

参考 https://www.psychologicalscience.org/observer/writing-notes