井出草平の研究ノート

TIMSS 2003


国際教育到達度評価学会(IEA)が行っている学力国際比較調査。学力低下の論拠とされる調査であるが、報告書を詳細に分析すると、学力は全く落ちていないことが判明する。

国際数学・理科教育動向調査(TIMSS) 2003
http://timss.bc.edu/timss2003i/conference_IR.html


この調査では、第4学年=小4(25カ国・地域)と第8学年=中2(46カ国・地域参加)の数学と理科のスコアの移り変わりが読み取れる。近年では2003年に調査がされた。次回調査は2007年である。


この調査は以下のように報道されていた。

学力調査:得意の理系も低下 文科省も認める−−国際評価学会
 国際教育到達度評価学会(IEA)が03年、各国の中学2年生(46カ国・地域参加)と小学4年生(25カ国・地域)の学力を調べた国際数学・理科教育調査(TIMSS)で、世界トップレベルとされてきた日本の小4理科と中2数学の平均点が前回(小4は95年、中2は99年)から下がったことが分かった。高校1年生の読解力が下がった経済協力開発機構OECD)の03年学習到達度調査(PISA)に続き、学力低下が浮き彫りになった。(2004.12.15 毎日新聞)


この調査をメディアは学力低下が実証されたとして報道しているし、学力低下論者たちは、この調査を根拠に学力低下論を組み立てている。しかし、この調査を詳細に検討すると、学力低下を読み取ることは出来ないことがわかる。以前にも別のブログで検討したが、新しい資料も出てきているので、もう一度検討してみる。



数学(中2)
数学(中2)の日本の順位は5位である。前回調査(1999年)も5位。変動無し。

  1. シンガポール
  2. 韓国
  3. 香港
  4. 台湾
  5. 日本
  6. ベルギー

日本はシンガポール・韓国・香港・台湾より統計的に有意に低く、ベルギーより有意に高かった。前回調査では、1位(シンガポール)、2位(韓国)より有意に低く、6位(ベルギー)より有意に高かった。日本の位置は変わらなかったと考えて良い。



算数(小4)
算数(小4)の日本の順位は3位である。前回調査(1995年調査)でも3位。変動無し。

  1. シンガポール
  2. 香港
  3. 日本
  4. 台湾
  5. ベルギー
  6. オランダ

日本はシンガポール・香港より統計的に有意に低く、台湾とは有意差が無く、ベルギー・オランダより有意に高かった。前回調査では1位(シンガポール)・2位(韓国)より有意に低く、4位(香港)とは統計的な有意差はなく、5位(オランダ)より有意に高かった。日本の位置は変わらなかったと考えて良い。


小4で3位なのに、中2で5位になるのは日本人の学力が年齢と共に落ちるのではなく、小4の調査に2003年は韓国が、1995年は台湾が参加していないからであろう。シンガポールは1位をキープしているが、2〜5位を日本・韓国・香港・台湾の4カ国で争っているという構図である。



理科(中2)
理科(中2)の順位は6位である。前回調査(1999年)では4位だった。この順位降下は統計の誤差範囲である。

  1. シンガポール
  2. 台湾
  3. 韓国
  4. 香港
  5. エストニア
  6. 日本
  7. ハンガリー

日本はシンガポール、台湾、韓国より統計的に有意に低く、香港・エストニアとは統計的な有意差はなかった。つまり、サンプルが違えば4位か5位だったかもしれず、4〜6位の順位に意味はない。前回調査*1の順位は4位だったので、日本の理科(中2)の学力が落ちた訳ではないことが分かる。



理科(小4)
理科(小4)の順位は3位である。前回調査(1995年)では2位だった。この順位降下は統計の誤差範囲である。

  1. シンガポール
  2. 台湾
  3. 日本
  4. 香港
  5. イギリス

日本はシンガポール、台湾より統計的に有意に低く、香港・イギリスとは統計的な有意差はなかった。前回調査(1995年)では、1位(韓国)より統計的に有意に低く、3位(アメリカ)・4位(オーストリア)統計的に有意差はなかった。つまり、前回調査で日本は2位〜4位であり、サンプルが違えば4位だったかも知れない。従って、日本の理科(小4)の学力が落ちたということは言えない。



まとめ
国際教育到達度評価学会(IEA)による国際数学・理科教育動向調査(TIMSS) の分析の結果、日本の学力は国際比較において下降は起こっていないということが判明した。数学(中2小4)の順位は前回調査と同じであり、また理科は順位が落ちている*2ものの、その順位変動は統計の誤差である。


従って、TIMSSは学力低下の論拠とはなり得ない。むしろ、学力低下が起こっていないことの証拠にはなると考えられる。



参考資料(2003年)
報告書はすべてPDF形式でダウンロードできる。


参考資料(前回調査)

*1:なお前回調査では、1位(台湾)より統計的に有意に低いが、2位(シンガポール)・3位(ハンガリー)・5位(韓国)・6位(オランダ)・7位(オーストラリア)・8位(チョコ)・9位(イングランド)とは統計的な有意差はなかった。

*2:中2で4位→6位、小4で2位→3位