井出草平の研究ノート

ベンゾジアゼピンと認知症リスク

ケース

メタアナリシス。対象となった研究は2002年[27]から2013年[16]の間に発表されたものである。最大追跡期間は8年 [15, 27] から25年 [12] であった。対象となった研究のサンプル数は1063件[13]から25,140件[14]で、合計45,391人であった。認知症症例数は93例[12]から8,434例[14]で、合計11,891例であった。

結果

認知症のプール調整後リスク比(RR)は、未使用者と比較して、常用者では1.49(95%信頼区間(CI)1.30-1.72)、最近の使用者では1.55(95%CI1.31-1.83)、過去の使用者では1.55(95%CI1.17-2.03)であった。ベンゾジアゼピンの定められた1日量を年間20回追加するごとに認知症リスクは22%増加した(RR、1.22、95%CI 1.18-1.25)。

ベンゾジアゼピン系薬剤の使用経験と認知症リスク

RRを未調整のままプールしたところ、常用者は常用者と比較して認知症リスクの増加を示した(RR 2.03、95%CI 1.56-2.63)(図2)。交絡因子を調整した後も、プールされたRRは有意なままであり(RR 1.49、95%CI 1.30-1.72)(図2)、不均一性は低かった(p = 0.19; I2 = 35.1%)。

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ベンゾジアゼピン系薬剤の最近の使用と認知症リスク

最近の使用者は、未調整のRRをプールした場合、使用者よりも認知症リスクが高かった(RR 1.93、95%CI 1.33-2.79)(図3)。交絡因子を調整した後も、プールされたRRは有意であり(RR 1.55、95%CI 1.31-1.83)(図3)、不均一性は低かった(p = 0.32; I2 = 15.0%)。

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ベンゾジアゼピン系薬剤の過去の使用と認知症リスク

過去の使用者は、未使用者と比較して認知症リスクが1.69倍(95%信頼区間1.47-1.95)高かった(図4)。交絡因子を調整した後も、プールしたRRは有意なままであり(RR 1.55、95%CI 1.17-2.03)(図4)、中等度の不均一性を有していた(p<0.01;I2=72.6%)。

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用量反応解析

わずか2件の研究[14, 15]に基づいて、ベンゾジアゼピンの使用と認知症の間に有意な用量反応関係があることがわかった。認知症のリスクは、ベンゾジアゼピンの定義された1日量を年間20回増量すると22%増加した(RR 1.22、95%CI 1.18-1.25)が、不均一性の証拠はなかった(p = 0.32; I2 = 0.0%)。

結論

ベンゾジアゼピン長期使用者は、非使用者に比べて認知症のリスクが高い。しかし、研究が限られていることや逆因果関係の可能性があることから、本研究で得られた知見には注意が必要である。

いくつかの研究[13, 14, 27]では、Z-drugsなどのベンゾジアゼピン関連薬をベンゾジアゼピンとして扱っており、ベンゾジアゼピン使用と認知症のリスクを過大評価する可能性がある。

先行研究

65歳以上の対象者におけるベンゾジアゼピン使用率は、ドイツでは18.9%[5]、カナダでは15.0%[6]である。中国では不眠症患者の3分の1近くがベンゾジアゼピンを服用している[7]。ガイドラインでは、ベンゾジアゼピンの全体的な使用期間は数週間に限定すべきであると推奨されているが[8]、長期使用は依然として一般的である[3、9、10]。