クイーンズ・ギャンビットに登場する薬はベンゾジアゼピンのリブリウム(クロルジアゼポキシド)だそうだ。
主人公がベンゾジアゼピン依存症になるというのが何とも今っぽい設定である。アメリカだとザナックス(日本での商品名は商品名はソラナックス、コンスタン)、日本ではデパスへの依存が問題になっている。
クイーンズ・ギャンビットでは、孤児院でリブリウムを飲み、それが依存症の体質を作り、アルコール依存に発展するという話の流れになっている。しかし、薬物依存症は遺伝的・生得的にリスクがある程度決まっているので、ベンゾジアゼピンによって依存症が作り出されるというのは誇張があるように感じる。ベンゾジアゼピンに害がない、ということではなく、そもそもリスクがあって、たまたま依存の対象がベンゾジアゼピンであった、アルコールであったという理解の方が実態には近い。
錠形
ドラマに登場する薬は架空のものかと思ったが、調べてみると10mg錠と配色がよく似ている。
大きさはドラマ中の方が大きいように思える。
日本におけるリブリウム
日本ではコントロール、バランスという名前で発売されている。
禁止薬物ではなく、日常的に処方されている薬である。ドラマからは、昔は売店にも売られていた薬だったが、依存性が高いので今は禁止されているという印象を受けるが、そういった薬ではない。
性格とベンゾジアゼピン
As noted on page one of Tevis' book, American women of the early '60s presumably needed to "even their dispositions." https://screenrant.com/queens-gambit-pills-tranquilizers-real-fake-explained/
孤児院でリブリウムが処方されていた理由は説明されていないが、子どもたちを落ち着かせ、性格を穏やかにするためだと推測できる。原作者のテヴィスの本には上記の記述があるそうだ。
精神安定剤(tranquilizer)という名前がついているので、飲むと落ち着きそうな気もするが、ベンゾジアゼピンは、荒い気性がより荒くなり、興奮はより大きくなる可能性がある。ベンゾジアゼピンはリストカットを悪化させることは比較的知られていることである。一般的に思われている精神安定剤(この言葉の字面としてイメージされるもの)と、実際の薬理作用が異なっているところである。
歴史
クロルジアゼポキシドは、1950年代半ばに合成された最初のベンゾジアゼピンである。当初はメタミノジアゼポキシド(methaminodiazepoxide)と呼ばれていた。1957年にはスイスのロシュ社より発売。1959年には2,000人以上の医師と20,000人以上の患者に使用された。「現在利用可能な精神安定剤、精神賦活剤や他の精神療法薬のいずれかとは化学的にも臨床的にも異なる」と説明されていた。急性および慢性のアルコール依存症、様々な精神病や神経症のために入院した42人の入院患者にクロルジアゼポキシドを投与した。大多数の患者では、不安、緊張、運動興奮が有意に減少した。最も効果があったのはアルコール依存症の患者であった。感情的要因を伴う潰瘍および皮膚病の両方がクロルジアゼポキシドによって減少したと報告されている。
- The New York Times (28 February 1960). "Help For Mental Ills (Reports on Tests of Synthetic Drug Say The Results are Positive)". The New York Times. USA. p. E9.
1963年、国立精神衛生研究所中毒研究センターのカール・F・エッシグ(Carl F. Essig)は、メプロバメート、グルテチミド、エチナム酸塩、エチナム酸塩、エチクロルビノール、メチプリロン、クロルジアゼポキシドについて、その有用性が「ほとんど疑問の余地がない」薬物であると述べている。しかしエッシグはこれらの「新しい製品」を「中毒性のある薬物」としている。エッシグは、クロルジアゼポキシドの90日間の研究に言及し、68人の使用者の自動車事故率が通常の10倍であったと結論づけた。参加者の1日の投与量は5~100ミリグラムであった。
- The New York Times (30 December 1963). "Warning Is Issued On Tranquilizers". The New York Times. USA. p. 23.
1963年には一般紙であるニューヨークタイムズにベンゾジアゼピンの警告が掲載されていたようだ。事故率が高いという報告があるように、ベンゾジアゼピンを飲むと慎重さに欠けることがある。おそらく、チェスをプレイする上であまり良いことはない。