井出草平の研究ノート

鹿児島県警サイバー犯罪対策課のツイートはどこが問題か

鹿児島県警サイバー犯罪対策課がゲーム障害についてツイートして、批判が寄せられたため、取り下げるということが起こったらしい

news.livedoor.com

Twitterのみなさんのスピードには追い付かないが、僕の立場からできる指摘を行っておこう。 当のツイートは以下のようなものだった。

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スマホでゲームをする時間を自分でコントロールできますか?

おそらく、ゲームをやり始めて、ついつい当初の時間より長くやってしまった、という意味だろう。使用時間が増えることが、ゲーム障害やネット依存症の証拠だと考えている人もいるようだ。しかし、それは間違いである。

単に「ゲームをする人」にとどまらない「ゲーマー」と目され、ゲームマニアと呼ばれることもある熱狂的なプレイヤーたちの一群も存在する。これらの人々は、週に20-30時間をゲームに費やしていながら、IGD(インターネット・ゲーム障害)の基準を満たしていない。他のゲーマーとの競技に参加し、観衆を楽しませて給与を得るプロゲーマーたちのリーグもあるが、こうした人々もIGD基準に適合しないことが多い。(ダニエル・キング『ゲーム障害 ゲーム依存の理解と治療・予防』:60)

依存と使用時間には関連があるはずだ、と考える人は多いが、現実はそうではない。例えば以下のような研究がある。

ネット依存症とネット使用時間は無関連。関連があるのは不安症状。

ides.hatenablog.com

私たちは行動をコントロールできているのか?

ゲームをついついやりすぎてしまうことは異常なのことなのだろうか。おそらく「よくあること」である。ついついごはんを食べ過ぎてしまったり、ついつい観るつもりのなかったテレビ番組をみてしまったり、するものだ。

私たちは自身を完全にコントロールできているはずがない。まぁ、もちろん、中には、当初の予定時間通りに「まるで機械のように」動くことのできる人もいるだろうが、多くの人たちはそうではないはずだ。

精神医学では「過度に(excessive)」という言葉をよく使う。例えば、うつ病抑うつ気分という症状は、気分の落ち込みを意味する。誰だって気分が乗らない時や落ち込むとはあるだろう。しかし、ベッドから立てず、ごはんを食べるのもままならず、仕事にもいけず、といった状態が2週間も続けば「質的に」別の問題となる。質的に別の問題、つまり、過度な落ち込みである抑うつ状態、うつ病と呼ばれる状態だ。

ゲームをついつい長くやってしった人は、そのうちゲーム障害になるのか、というと、その可能性は低い。ショックなことで落ち込んでしまった人がかならずうつ病にならないのと同じだ。落ち込んでしまったり、ゲームをついつい長くやり過ぎることは精神疾患ではなく、人間らしい、よくあることである。

日常生活よりゲームを優先する

日常生活という意味が幅広いので、どういう意図で書かれたのかはわからないが、結論からいえば、人の趣味趣向の問題で、人の生き方である。

MMORPGなどではゲームの中でいろいろな人とコミュニケーションをとっていて、リアルな関係よりオンラインの関係の方が魅力的であることもあるだろう。

日常生活に問題が生じる

精神医学では社会的機能と呼んでいるものである。一般的に浸透していない概念だけに、好きなように使われてしまっているのが現状だ。

日常生活に支障とは、通常、GAFが50以下もしくはSOFASが50以下といったものを指す。例えば、うつ病でベットから動けず、会社に行くことができないといった状態であればGAFもSOFASも50以下となる。食物を食べない、排せつの処理が不適切(垂れ流し)などになってくると、GAF、SOFASとも20以下と評価する。

ゲーム障害で、日常生活に支障というのは、学生であれば、少なくとも不登校か、他の社会的活動ができないレベルまで社会的機能が低下しなくてはならない。社会人であれば、仕事に行けない、仕事をすることができない、他の社会的活動もないことが続くことを意味する。

鹿児島県警を含め一般的にはもっとゆるい条件のように解釈されているのではないだろうか。

ゲームに熱中していたので、宿題をするのを忘れてしまったとか、そういうレベルのことを想像しているように思えて仕方ない。

新しいテクノロジーは悪者にされる

ゲームやネットをやり過ぎると、生活に悪影響が出ると考えられがちだが、間違いといってよいだろう。
韓国で行われたインターネット利用した調査ではオンラインゲームをするネット使用時間の長いグループの方が学業成績が良いという結果が出ている。

ides.hatenablog.com

ゲームのせいで成績が落ちたと嘆く親御さんもいるかもしれないが、それはゲームのせいではないかもしれない。学術論文の指摘は、ゲームがなくとも、自分の子どもの成績は落ちていた可能性があったことを気づかせてくれるだろう。ゲームのせいにしたい気持ちはわからなくもないが。

LINEばかりしていて家族の会話が減ったと、親や保護者がボヤくこともあるが、それはLINEのせいなのだろうか。親子関係が冷えていたりするので、子どもがLINEばかりしている可能性はないだろうか。
それに、反抗期に親や保護者と会話を嫌がるのは極めて正常なことでもある。

新しいテクノロジーは悪者扱いされやすいのでテクノロジーは叩かれがちである。しかし、そうやっているうちは、真の原因はみつからず、ただ解決が先延ばしにされているだけだということを忘れない方がいい。

ゲーム障害という精神疾患

ICD-11の採択は2022年の予定なので、将来的にはゲーム障害が精神疾患になるので、間違いとも言い切れない。
今の段階でゲーム障害が精神疾患だ、というのは不正確だろう。

とはいえ、精神障害の構成要件が間違えているので、やはり不適切である。

ゲームを止めましょう

警察という立場で「ゲームを止めろ」と言えば、ゲームの売り上げが下がるなどの効果が予測できる。これは、ゲーム制作会社やゲーム関連の仕事をついている人たちへの威力業務妨害である。

精神医学の知識が足らないのも問題だが、鹿児島県警という立場で発言するべきか否かの判断がついていないことも大きな問題のように感じるのだが、いかがだろうか。