井出草平の研究ノート

デジタルの世界は人々を傷つけない

unherd.com

TOM CHIVERS 2021年5月13日


新しいテクノロジーの危険性は過大評価されているという新しい研究結果が発表された。

新しいテクノロジーに対するモラル・パニックは、世代ごとに異なる。無声映画は犯罪を誘発すると言われ、暴力的なテレビや、後には暴力的なビデオゲームは暴力を引き起こすと言われきた。

40年前、私たちは議会で「スペースインベーダーなどの電子ゲーム」が子どもたちに与える悪影響について議論した。最近では、ソーシャル・メディアが問題になっている。ソーシャルメディアは中毒性があり、私たちの脳の報酬機能を刺激するように調整されていると考えられている。まるで麻薬のように、ソーシャルメディアドーパミンシステムを破壊すると言われている。ソーシャルメディアによって、落ち込んだり、孤独になったり、不安になったりして、私たちがダメージを受けていると主張されている。

問題は、誰も今の瞬間しかみていないことである。新しいテクノロジーが登場するたびに、私たちは少し前に最新であったテクノロジーを忘れてしまう。暴力的なビデオゲームはなくなってはいない。それどころか、むしろクオリティは格段に良くなっているといっていいだろう。1990年代初頭に「Doom」が大流行したが、今プレイしてみると笑ってしまうクオリティである。あの粗雑でブロック化されたピクシブのようなグラフィックが子供たちを暴力に駆り立てたとしたら、「Apex Legends」にはどんな能力があるだろうか。あるいは、「Call of Duty: Black Ops Cold War」はどうだろうか。

映画やテレビ、広告も同じだ。おそらく、それらを作る人たちは時とともに仕事のレベルは高くなり、技術自体も進歩しているのだろう。

しかし、この考えの興味深い帰結を指摘した新しい論文がClinical Psychological Science誌に掲載された。もし、これらの技術が本当に私たちに負の結果をもたらすのであれば、そして、それらが時間とともに改善されていくのであれば、負の結果は悪化するべきではないのだろうか?

暴力のリアルな描写が問題なのであれば、「Doom Eternal」(2020年)の方がオリジナルの「Doom」(1993年)よりもはるかにリアルに描かれている。エターナルを1時間プレイするごとに、1993年のクラシックゲームを1時間プレイするよりもずっと悪い影響があるはずだ。

CPSの論文では、それを調べようとした。ソーシャルメディア、「デジタル機器の使用」(ビデオゲームなど、仕事以外でのスクリーンの使用)、テレビという3つのテクノロジーに注目した。そして、これらのテクノロジーの使用と、青年期のさまざまなメンタルヘルスのアウトカム(うつ病、自殺傾向、行動や感情の問題)との相関関係を調べた。そして、その相関関係が時系列で変化しているかどうかを調べた。例えば、2018年にビデオゲームを1時間プレイした場合、2010年に1時間プレイした場合よりも行動上の問題が悪化するのか?2018年の1時間のビデオゲームは、2010年の1時間よりも行動問題の悪化につながるのか?

率直に言って、答えは「ノー」である。デジタル機器・ソーシャルメディアと情緒的問題との関連性が少し上昇し、うつ病との関連性が低下していますが、大まかに言えば影響はなかった。

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しかし、もしテクノロジーが私たちが恐れているような悪影響を及ぼしているのであれば、この結果は筋が通らない。これらのテクノロジーは、私たちのに魅力的にみえるように調整され、血液や流血がリアルになればなるほど、私たちにますます深く爪を立ててくるはずだ。しかし、そうはなっていない。

テクノロジーで嫌な思いをする人がいないというわけではない。もちろん、そのような人もいるだろう。しかし、どの世代にもそれぞれのモラルパニックがあり、新しいものが出てくるとすぐに前のものを忘れてしまうということを思い出すには十分なことである。

また、現在、私たちは「オンライン上の有害性」を規制するプロセスを経ていることも忘れてはならない。これは、そのような害が実際にあるという考えに基づいている。しかし、今回の論文の著者の一人であるオックスフォード大学のアンドリュー・シュービルスキー教授は私にこう言った。「もしこのような介入を行うのであれば、しっかりとしたデータを得る必要があり、そうでなければ間違いを犯すことになるでしょう。」人々が好きな方法でインターネットを利用する権利を制限するのであれば、しっかりとした証拠に基づいて行われるべきです。シュービルスキー教授は「科学的証拠がインターネット利用の制限問題の核心ではないというのは、本当に衝撃的でがっかりすることです」と述べている。

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DOOM(1993)

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DOOM Eternal(2020)