井出草平の研究ノート

スマートフォンは青少年の睡眠に悪影響を与えるのか?夜間スマートフォン使用と睡眠に関する電子日記研究

www.sciencedirect.com

  • Tkaczyk, M., Lacko, D., Elavsky, S., Tancoš, M., & Smahel, D. (2023). Are smartphones detrimental to adolescent sleep? An electronic diary study of evening smartphone use and sleep. Computers in Human Behavior, 149, 107946. https://doi.org/10.1016/j.chb.2023.107946

研究の背景と目的

従来の研究では、スマートフォン使用が思春期の睡眠に悪影響を与えると報告されてきた。しかし多くは横断研究や自己申告データに基づき、日ごとの変動や客観的な使用状況を十分に捉えていなかった。本研究は、チェコ共和国の13〜17歳の青年203名を対象に、14日間の電子日誌法と専用アプリによる客観的な使用ログを用いて、就寝前2時間のスマホ利用と睡眠との関連を、**個人間差(between-person)日内変動(within-person)**の両レベルで検討した。

方法

  • デザイン: 14日間の電子日誌研究。
  • 測定: アプリで就寝前2時間のスマホ使用時間を自動記録。朝に自己報告で就寝時刻、入眠潜時、睡眠時間、睡眠の質、翌日の眠気を記録。
  • 分析: マルチレベルモデルで個人間・個人内の関連を分離して検討。

主な結果

  1. 個人間レベル

    • 普段からスマホを長時間使用する青年と短時間使用する青年を比較しても、睡眠の質や量に有意な差はなかった。
    • 睡眠に影響を及ぼしていたのは不眠症傾向や他のメディア利用(テレビ、PCなど)であり、スマホ使用そのものではなかった。
  2. 個人内レベル

    • ある日の使用時間が普段より長い場合、むしろ就寝がわずかに早まり、睡眠時間も若干長くなる傾向があった(効果量は小さい)。
    • 入眠潜時、睡眠の質、翌日の眠気といった他の指標には悪化は見られなかった。
    • 非登校日の前夜には、スマホ使用と早めの就寝との関連が強まった。
  3. 交互作用効果

    • 年齢、性別、日々のストレス、不眠傾向、他メディア利用量はいずれも、スマホ使用と睡眠の関連を有意に修飾しなかった。

結論

  • スマホ使用=睡眠に悪影響」という単純な図式は支持されなかった
  • むしろ、日によって使用が多いときに就寝が早まり睡眠時間が増えるという予想外の結果も示された。
  • スマホ使用と睡眠の関係は、従来の研究が主張したほど一方的に有害ではなく、より複雑で状況依存的である。