井出草平の研究ノート

大久保智生・加藤弘通「問題行動を起こす生徒の学級内での位置づけと学級の荒れおよび生徒文化との関連」

大久保智生・加藤弘通,2006,
問題行動を起こす生徒の学級内での位置づけと学級の荒れおよび生徒文化との関連
『パーソナリティ研究』 14(2),205-213.


この論文で「問題行動」と定義されているのは以下のような行為

問題行動とは,「教師や大人といった周囲の者にとってそのままでは困ると考える行動」のことである(加藤,2003b).

該当論文は以下

  • 加藤弘通 2003b 問題となる行動:間題の見方と対策の立て方 都筑学(編)やさしい心理学入門 ナカニシヤ出版 Pp.161-176, ASIN:4888487766

 これに対し,近年の非行研究では,「能動的な非行少年」観という見方が提示されている(国吉,1997;守山・西村,1999).この見方では,少年は種々の要因によってやむをえず非行,問題行動に走るのではなく,彼あるいは彼女なりに状況を解釈・判断した結果,自らの目標達成(例えば,集団内での地位の維持や向上)にとって最適であるから,非行,問題行動を起こすと考える.つまり,集団内の自らの地位を維持し,向上させるために問題行動を起こすと考えるのである(Emier&Reiche1995)と,大人や教師からは不適応行動とみられる非行,問題行動も,仲間集団や学級集団においては,支持あるいは肯定的な評価を得られる適応的な行動とみなせるのである.


枕におかれているのはこの本。

  • Emler, N., & Reicher, S. 1995 Adolescence and delinquency: The collective management of reputation. Cambridge, Mass: Biackwell.

「問題行動を起こす生徒が受容されている学級」ほど学級が荒れており,不良少年に対して否定的な感情を抱いておらず,不良少年の活動に対して肯定的な評価を下す雰囲気がある可能性が示唆された,以上のように,問題行動を起こす生徒を受容する学級では,問題行動を支持する生徒文化があり,そのために問題行動が継続化し,「学級崩壊」現象が起きている可能性が示唆された.したがって,学校だけでなく,学級においても問題行動を支持する生徒文化があることが本研究の結果から示された.

問題行動の経験の多い生徒が一概に排斥され,学級内で周辺部に位置するわけではないことが明らかとなった.また,問題行動を起こす生徒の位置づけは学級の荒れと生徒文化と関連しており,問題行動を起こす生徒が受容されている学級ほど荒れており,問題行動を起こす生徒の活動に対して肯定的な評価を下す雰囲気かあることが明らかとなった.
 これらの結果は,「能動的な非行少年」観を支持するものであり,問題行動を起こす生徒や非行少年が対人関係を築く能力である社会的スキルの欠如から仲間集団から排斥されていることを示唆する研究(patterson & Dishon 1985)とは異なるものである.つまり,問題行動を起こす生徒や非行少年は,集団内での対人関係を築けていないわけではなく,すなわち社会的スキルが欠如しているわけではないといえる(磯部・掘江・前田,2004).

  • 磯部兼良・堀江健太郎・前田健一 2004 非行少年と一般少年における社会的スキルと親和動機の関係 カウンセリング研究,37.15−22.

学校(社会)の側から見たとき不適応(不適合)であるにもかかわらず,問題行動を起こす生徒がその状況や文脈に適応(適合)してしまっていることこそ間道にすべきであると考えられる.

  • 深谷呂志・三枝恵子 2000 授業の荒れ(生徒調査) モノグラフ・中学生の世界Vol.65 ベネッセ教育研究所 http://www.crn.or.jp/LIBRARY/CYUU/VOL650/index.html
  • 加藤弘通 2001 問題行動の継続過程についての分析 発達心理学研究,12,135−147.
  • 加藤弘通 2003a 問題行動と生徒文化の関係についての研究仲不良生徒及びまじめな生徒に対する生徒集団の評価が問題行動の発生に及ぼす影響について 犯罪心理学研究,41,17-26.
  • 加藤弘通・大久保智生 2000 問題行動と生徒文化の関係についての研究(1):生徒は〈不良〉をどうみてるのか? 日本教育心理学会第42回総会発表論文集, 623.
  • 加藤弘通・大久保智生 2002 問題行動の継続過程と生徒文化の関係:〈荒れている学校〉と〈落ち着いている学校〉がもつ生徒文化の比較から 安田生命社会事業団研究助成論文集,37,73−79.
  • 加藤弘通・大久保智生 2004 反学校的な隼経文化の形成に及ぼす教師の影響−−字校の荒れと生徒指導の関係についての実証研究 季刊社会安全,52,44−57.
  • 近藤邦夫 1994 生徒と教師の関係づくり:学校の臨味心理学 東京大学出版会 ASIN:4130133004
  • 武内清 1993 生徒文化の社会学 木原孝博・武藤孝典・熊谷一乗・藤田英典(編)学校文化の社会学 福村出版 p.107−122.ASIN:4571101023