井出草平の研究ノート

ゲーム時間が長いと社会的能力が低くなるわけではない

ゲーム時間が長いと友達と遊ぶ時間が少なくなり、社会的能力が低くなるのではないか、という心配があったり、逆に、社会的能力が低いからゲーム時間が長くなるという推測がされたりする。この論文は6-12歳の子どもを6年間(4時点、2年おき)に追跡して検証した論文である。

「社会的能力の低さがゲームの多さを予測するという、より一貫した結果を示していることに疑問を投げかける」結果となっている。

ノルウェーのWichstrømらのグループの研究。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

  • Hygen, Beate W., Jay Belsky, Frode Stenseng, Vera Skalicka, Marianne N. Kvande, Tonje Zahl-Thanem, and Lars Wichstrøm. 2020. “Time Spent Gaming and Social Competence in Children: Reciprocal Effects Across Childhood.” Child Development 91 (3): 861–75.


男女で傾向は異なっている。女子の場合、社会的能力高さがゲーム時間の多さを予測する(8歳→10歳、10歳→12歳)している。逆にゲーム時間の多さが社会的能力低さも(10歳→12歳)予測している。女子に関しては部分的ではあれ、上記の心配は該当しているようだ。

男子の場合ゲーム時間が多いほど社会的能力の低下につながるという傾向は見られなかった。社会的能力の低さがゲーム時間の多さにはつながる8歳→10歳、10歳→12歳での関係は存在する。

下記が著者らの解釈の一つである。

ここで報告された結果に関して最初に取り組むべき質問は、なぜゲームに多くの時間を費やすことが、女子の社会的能力に悪影響を及ぼし、男子の社会的能力には影響を及ぼさないのか、ということである。 女子は男子よりも小さなグループで遊ぶ傾向があり、その人間関係はより親密であることが多い(Hartup, 1992)。一方、男子は女子に比べて大きな集団で遊ぶ傾向がある(Rose-Kras-nor, 1997)。したがって、ゲームをしている女子は、親しい友人や少数の友人とのより親密な交流という、非常に重要なものを失っているのかもしれない。 そのため、ゲームに費やす時間は、少女の発達のこの側面にあまり影響を与えない可能性がある。言い換えれば、少年と少女の仲間との社会生活の違いを考えると、ゲームに費やす時間は、少年にとって発達の「代償」とならないかもしれない。

この解釈はデータを受けての著者らの推測であるため、正しいのか否かはわからない。女子というよりも、その中にサブカテゴリが存在するのではないか、という問いかけにもつながるだろう。

ゲームの定義

ゲームとは、主にオンラインでプレイされる、他のプレイヤーも参加するゲームのことを指す。ただし、他のプレイヤーが参加することは必須条件ではない。 ゲームに費やした時間についての質問に答える際には、スマートフォンタブレットプレイステーション任天堂など、オンラインではないコンピュータ、デバイス、コンソールでプレイするゲームに費やした時間も含めることを忘れないでください。 ボードゲームやそれに類するゲームは含めないこと。また、学校用インターネット、純粋なソーシャルメディアサイト、性的なオンラインページで過ごした時間は含めないこと。

社会的能力

社会的スキル評価システムthe Social Skills Rating System(SSRS; Gresham & Elliott, 1990a)を用いた。

社会経済的地位

親のSESの測定には、The International Standard Classifica- tion of Occupations (ISCO; ILO, 1990)を使用した。

分析

構造方程式モデリングを用いて、共変数を調整した上で、サンプル内のすべての子どもについて、ゲームに費やした時間と社会的能力の間の横断的および縦断的関係を評価した。この分析に続いて、性別によって結果が異なるかどうかを判断するために、多群間比較を行った。クロスラグ・モデルの検定はMplusで行った。

モデル

全体

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女子 f:id:iDES:20220210013511p:plain

男子 f:id:iDES:20220210013521p:plain

先行研究

ノルウェーの9-16歳の男子の96%、女子の76%がビデオゲームをプレイし、約半数が1日2hまでプレイしているが、4h以上プレイするのは8%である(Norwegian Media Authority, 2016)。

Granicら(2014)によるゲームの潜在的な有益性に関する最近のレビュー

  • Granic, I., Lobel, A., & Engels, R. C. M. E. (2014). The benefits of playing video games. American Psychologist, 69(1), 66–78. https://doi.org/10.1037/a0034857

ゲームの頻度が高いほど社会的困難が増すことと関連していることを示す理由を説明している(Griffiths, 2010; Lemmens et al., 2011a(特に暴力的なゲームに費やした時間)、対人関係の質の低さ(Kowert, Domahidi, Festl, & Quandt, 2014、M_age=16.4)。Parkes, Sweeting, Wight, and Henderson (2013) の縦断研究では、そのような逆相関を記録することはできなかったが、この研究は5歳から7歳という非常に限られた時期の子どもだけを対象としている。+


オンライン活動の動機は、新しい人と出会うことを難しくしている社会的スキルの低さを補う欲求であることが多い(Bonetti, Campbell, & Gilmore, 2010)


Lemmens, Valkenburg, and Peter (2011b)は、青年を対象に2回の調査を行ったところ、6か月間で、社会的能力が低いほど、ゲーム時間が長くなくても病的ゲーム(精神障害の診断と統計マニュアル第4版-病的ゲームの基準に基づく7項目のゲーム中毒尺度を使用)が多いことが事前予測されるのに対し、病的ゲームは社会的能力の低さを予測しないことがわかった。